二つの恋の決着ートラ・リリーと満男・泉

(1)最後の巻
   山田監督は、これが最後の「男はつらいよ」となると思って作っていたと私は,
想像します。というは、長い長い寅とリリーの恋愛に一応の決着をつけていると思うから。
また、長い満男と泉の恋愛にも決着をつけていると思うから。
 しかし、泉が満男に迫り、満男に愛を告白させている場面は実にいいねえ。飛行機で泉が
やってくる場面は期待でワクワクする。やはり、恋愛は、若者のものだ。満男が海にざぶん
というのは、どうも面白くないが、仕方がない。まさか、ひっしと抱き合うというのでは、
喜劇に合わないものねえ。普通の姿は、しっかり抱き合うのだと思うけれど。そしてこの時
の寅の言葉=「無様だねえ」が寅の生きざまの美学を示している。
 寅の生きざまの美学(かつての日本人男性の一種の美学)−男は黙って身を引くなどーと
それを否定するリリーの(女の「本音で生きよう」)生き方との対立は、これまた面白い。
 その場面での渥美清浅丘ルリ子の絶妙の掛け合いがいい。
 寅とリリーは好いた者同士。しかし、好いたもの同士でも結ばれないこともある。たとえ、
親の反対や取り巻く環境の邪魔などがなくとも結ばれないことがあるという例を示していて
、人生の機微を表わしていて、これもまたいい。
寅がリリーの家まで送っていくというまでになる掛け合いがまたいいねえ。そして最後は喧
嘩して寅がいなくなっちゃう。それがまたいい。一緒に夫婦として暮らすなんてことでは、
フーテンの寅にはならないのだから。だから、この巻は、「男はつらいよ」全体の締めでも
ある。