用心棒日月抄

 この小説は、藤沢周平の傑作であると思う。傑作と言っても娯楽という面でである。藤沢周平には、シリアスな短編が数多くある。それは本当に人生の重みを表現していて鋭い。しかしこれらは、読んでなるほどと納得させられるものの、重たいものである。気合を入れて読まないとなかなか読めない。
 しかし、この「用心棒日月抄」は、気楽に読める。楽しい。面白い。エンターテイメントである。その魅力をあげると
(1)まずは、ユーモアであろう。
 細谷源太夫と青江又八郎のやり取り、彼らと吉蔵のやり取り、中老間宮、元の家老で嗅足棟梁谷口権七郎、いずれもひと癖ある連中で面白い。
(2)人物像がくっきりしている。
 上の人物群に限らず、多くの人物がくっきりと生き生きと描写されている。本当にこのような人々がいたんだろうと思われるように描いている。それは、老中・武士・浪人・商家の旦那・奉公人・子ども多くを描いてまるで生きているようだ。
(3)佐知という女性について
 この小説の魅力の大きな部分は、青江又八郎と佐知のそれぞれの性格・行動の魅力とこの二人の恋愛であろう。二人に共通するのは、自分の仕事に対する誠実さであろうか。責任感であろうか。その故に二人で大きな仕事を成し遂げる。どちらも能力が高い。青江は、人物が優しい大きい。そして誠実である。その誠実な青江が、妻を裏切り佐知と愛を確かめ合う。しかし、読んでみてその不倫も良し、仕方ないという気になる。それほど二人は、命がけで互いを支え合って大きな仕事をするのだ。
 佐知は、素晴らしい女性である。困難な状況を打開する力、リーダーとしての統率力、誠実な仕事ぶり、しかし、それでいて高ぶらず控えめ。
ひょとすると、藤沢周平は、佐知に理想の女性を託したのではあるまいか。