居眠り磐音江戸双紙ー人のつながりー

「居眠り磐音」の今出ている全40巻分を読んだ。こんな長いのを読んだのは、いつ以来かなあ。近頃では、「夜明け前」以来かな。時代小説では、「用心棒日月抄」以来だな。
 「磐音」には、魅力的な人物がいっぱい出てくるな。まず主人公がいい。超人的剣術の強さ=絶対負けない、何人と戦っても勝つ。そんなことありえないのにね。まあお話さ。それでもばかばかしくならないのは、彼の誠実さ、謙虚さ、優しさ=他の人のことを優先する、その生き方にひかれるからだろう。実は俺は、剣術の戦い場面なんかは、いつも適当に読み流しである。
 この小説は、武芸者の対決、お家騒動、恋愛、経済、推理、捕り物、旅情、人間の成長、ユーモア様々な面がある。
 しかし、この時代小説の最大の魅力は、人間関係の麗しさであろう。磐根ばかりでなく、多くの登場人物が自分に厳しく他を思う人物である。彼らの織りなすその人間関係が麗しいことであると思う。親の坂崎夫妻、殿様夫妻、家基、佐々木玲圓夫妻、今津屋主人・番頭、柳次郎親子、鰻屋の親方、おこん、その他多くの登場人物が善意の人々である。現代社会にはあまりない、理想の社会である。それ ゆえこのシリーズは人気なのであろう。
 おれが面白いと思うのは、奉行所の筆頭与力である。頭が良い上に度胸もいい。そして金儲けがうまい。面白いキャラクターを作ったと思う。
 二人のヒロインはよくわからぬ。おこんは、現代風のしゃべりがどうも違和感がある。それと伝法な町娘の言葉づかいがどうもあわない。いまいちぴったりとこない。おきゃんで、賢く美しくまあ強い女性と描いているが具体的にビビッドに響いては来ない。奈緒もよくわからぬ。家のため身を売る女性、磐根を永遠に思う女性というのが分かるが、いまいち生き生きと描いていると思えぬ。ただ磐根の憧れの人として共感する。うまく魅力的に作ったのは、幸吉の幼馴染で職人見習いに出た少女である。(名前が出てこない)
 さてヒロイン。「用心棒日月抄」の佐知は生き生きと魅力的に響いてくる。「ウエルテル」のロッテも又。やはり、筆力の違いであろうと思う。