残酷な純子「阿寒に果つ」

 何の気なしに古い文庫本を手にとって読み始めた。この本は、妻の妹のもののようで、道理でこんな本あったけと記憶になかったはずだ。

面白かった。
純子と言う女の子の14才〜18才を描いている。その描き方が特徴的である。初めに、高校の同級生の男の子から見た純子。次の章からは、20年後、18歳で自殺した彼女を、関係した人々が、それぞれの目で見、心で感じた純子を話すという構成である。
美人で天才画家と言うのが純子の外的表面的特性である。

20歳近く年上の画家であり、師であり、愛人の男。純子の姉の恋人であり且つ愛人の男、自殺未遂の純子の面倒を見た医師、文学サークル関係の共産党オルグの男=愛人、そして姉。そんな人々が純子の思い出を語っている。

男たちに共通なのは、純子に惹かれ、体と心を求め、捉まえることができなかったということである。男たちから見た純子は魅力的である。そしてその魅力は、体を許しながらも、一人の男に縛られない魅力である。自分を愛してくれているようで、逃げ去っていく女の魅力である。
姉の告白は、ちと違う。純子は、同性愛的であるが、根本は自己中心的で自己愛の女と言うとらえ方である。
それにしても、姉の告白と男たちの印象は違う。
どんな女だったのかねえ。興味を持たせる。そう思わせるのが、渡辺淳一の才能なんだな。

この小説には、モデルがあるという。
作者渡辺淳一の高校時代の初恋の人という。初恋の人が、自分に気があるようで、とらえられず、他の男と関係があるようで、結局自殺してしまう。自殺は、なぞを残し憧れを残し、愛の思い出を残し甘く切ない気持ちを残し、永遠に飛び去ってしまうということ。永遠の失恋である。残酷だ。

姉の告白は、作者のこの残酷な失恋への復讐と言えそうだ。
それでも、彼女が最後に関係した男たちに何らかの挨拶をして自殺する。それもまた男たちにとって残酷でねーか。おいおい。いや「俺が愛されいた」って思えて幸せか。

いずれにしても、この小説は、作者の初恋の清算なんだとおもう。