やあ、面白い小説に当たったぞ

近頃白石一郎を読んでいる。白石一郎は、随分前「海狼伝」を読んで面白いなあ、と思ったまま、忘れていた作家だった。

近頃、4冊ほど短編と言うか連作と言うか、長くないものを読んだ。

面白いなあ。

連作は、十時半睡事件帖。他の事件帖と違い、主人公の縦横無尽な活躍とか、天才的ひらめきとか、そんなのがなくていい。解決していない事件も多い。半睡の失敗も語られていい。印象深いものを少々。


「逃げる女」

鹿内伝内は、謹厳実直な武士。故に出世もする。

描写は、務めの最後の日の様子を描く。退職後のささやかな夢を持って家に帰ると、妻から「今日を限りこの屋敷をさらせていただきます」と晴天の霹靂。茫然自失。その次の描写が家出妻の様子。生き生きと生きている。夫は、家出妻の弟から、「姉は出世を喜ばず、日々の暮らしが優しければ、貧乏暮しが楽しい女。そっとしておいてほしい」と言われる。そして、大身の奥様が、彼女を見習って家出する。十時半睡は、何も解決しない。

最後は、十時半睡が、息子に「おまえも気をつけろ」と言うと、「そんなバカな、あっはっは」と笑っていた息子が、ふと笑顔を引っ込めた。嫁がしずしずと酒を持ってきた。と言う描写で終わる。

解説を読むと、昭和58年から昭和60年ごろに書かれたもの。その頃の会社人間の男たちへの警告だったのかもしれない。怖いなあ。



「孤島物語」から一つ。「長過ぎた夢」

夢とは、小笠原諸島を発見した小笠原氏の子孫が小笠原諸島へ帰るという夢である。もちろん鎖国下。出国は重罪。しかし、日本領となれば話は別。
この話を持ちこまれた外国奉行や老中安藤信正は、日本領とすることに夢中になる。必死になる。英米露に無理難題をふっかけられ、屈辱感にさいなまされた彼らは、遠い南の太平洋に日本領が出来ると言うことに夢を見る。それは、結局実現するのであるが、(先住民は白人!!それでも日本領になった。すごいねえ)小笠原氏の子孫は処刑される。皮肉の利いた話である。
それにつけても、尖閣諸島。なんで戦後政府は手を打たなかったんだ。日本人が漁業関係者が使っていたんだろう。定住者もいたんだろう。中国・台湾が目を付ける前、眼を付けても力の弱かったころ、気象観測所とかおいてさ。なんか手があっただろう。そうしておけば国有化してもさほど騒がれなかったんじゃないかな。そんなことも思った。裁判になれば勝てるチャンスもありそうだ。裁判で決めようと言った方がいいんじゃないか。負けたってどおってことない。

白石一郎、面白いな。