「政治なんぞ分からぬ」という人は、与野党拮抗状態になるよう投票すべき

新年恒例の主要中央紙社説の読み比べをしよう。
(1)読売新聞
(まとめ)
パリ無差別テロ、ロシアによるクリミヤ併合、中国の南シナ海進出等、自由・平等・法の支配等価値観が揺らぎ、世界は分断へ向かっているようだ。そんな中今年サミットを主催する日本の役割は重要。
○(「対テロ」連携急務)
イスラム国」に対抗するため米欧露土などの連携が急務
中国の海洋進出へは、米国・豪・印・アセアンとの連携と安保法制の運用による日米同盟の抑止力強化で対応せよ
○(安保法制の有効運用を)
中国経済の減速に対して、中国の構造改革を促せ
アベノミクスの足踏みに対して、成長政策を強化せよ
○(家計と企業の不安を除け)
若年層の非正規労働から正規労働への転換、企業活動を助ける規制緩和、電力料金を下げるための原発再稼働。社会保障の充実のため混乱のない軽減税率導入
○(政権安定度を占う参院選
自民党の復調は公明の応援力のおかげ、参院選の焦点の一つは憲法改正勢力の数、大災害時の緊急条項考える必要ある、辺野古移設が現実的、野党も昨年の安保法制審議のような情緒的反応は困る。緊張感を持った政策論議期待する。


(感想)
いつも通り総花的で、どうにもまとまりが悪く、まとめるのに苦労する。
しかも、他社よりダントツに文章量が多いのだから、その主張の論拠を少しは示してもいいのに、論拠を示さない。
たとえば安保法制。「日米同盟がすすみ、抑止力が強化されたので、中国海軍が第二の国産空母建造めざすことを発表」?おかしくないですか。「日本も米国と一緒に戦うことになったので(=安保法制)、中国は恐れて空母建造を諦めた、というなら抑止力強化されたことになり、わかるんだがねえ。抑止力が強化され中国を抑えたと言う論拠を示せ。

さらに、「法の支配」が重要というなら、殆どの憲法学者違憲という安保法制に、読売が賛成って、法の支配無視じゃないかい。法の頂点が憲法だろ。矛盾じゃない?説明してよね。企業活動を援助するための規制緩和の一つが、労働関係の規制緩和、正規労働から非正規労働へのシフトだったでしょ。それが事実でしよ。正規労働を非正規にしないように規制強化すべきなんじゃないの?これも説明してください。軽減税率って収入源になるよね。その収入って社会保障にあてがうんでしょ。そしたら社会保障の充実のためには、軽減税率を実施しない方がいいんじゃないのかい?どうですか?

そして「安保法制の有効活用を」の項
酔眼で読んでるせいか、何度読んでも、安保法制のことに触れていない。どうもおかしい。無理に読むと、安保法制で中国への圧力が強化されたので、中国の構造改革へ圧力を加えろと言うことか。??。


まったく、酔っ払いが、誰かから聞いた考えを、自分で考えもせず、丸のみして吐き出している。そんな感じを受ける。自分と違う意見を持つものの悪口を言う。これが日本最大の販売部数の新聞とは、情けない。これは総花的なので、これから一つ一つ説明していくのかもしれない。

(2)毎日新聞
(まとめ)
世界でも日本でも社会の分断が進んでいる。日本の場合、安保法案、原発、沖縄に基地、家族の形などにそれが典型的に表れている。この困難な問題を決定する方法も、民主主義のやりかたの他に方法はない。民主主義が最後は多数決で決めるとしても、少数派に十分に検討を加えられたと言う実感がなければならぬ。現在の日本には二つの潮流がある。一つは、国家が目標を掲げて国民を引っ張る国家主導型社会である。も一つは、一人ひとりが自分で情報を集め、考え、発言し、決定に参加する社会である。民主主義とは、後者のやり方であろう。メデイアの公平さ、公正さにも異論や批判を多様に吸い上げることが大事である。民主主義に必要なことは、多様性と批判を許すことである。

(感想)
民主主義のあるべき姿という論点でまとまっている。「民主主義の基本は、多数決の正当性を保障する異論・批判の吸い上げ、少数派の意見の十分な検討、一人ひとりの思考・判断・決定への参加」という主張は、当たり前のことである。それが現在どのような状況であるか、どのようにしてそれを担保するかが重要である。そこまで毎日は主張してほしい。

(3)朝日新聞
(まとめ)
世界も日本も分断が進んでいるように見える。この潮流の中で分断を深める政治勢力がある。「イスラム国」トランプ氏等である。ピケテイ氏は、分断が進むと強権で押さえつけるか、革命が起きるかしかなくなるという。日本も分断から免れていない。かつての日本の平等な姿はすっかり無くなった。子どもの貧困・非正規雇用の増大・沖縄の基地問題等である。この修復には、理念より、実際的な考えがたいせつである。「お互い助け合った方が得、その方が自分も受益者になる」という視点が大事。社会の分断は民主主義にとって脅威である。「皆で決めた」という意識が是非必要だ。

(感想)奇しくも毎日と朝日は、現代社会の問題を分断と見て、それを民主主義の危機ととらえていて面白い。その解決方法としては、朝日は、「実際的観点」=お互いの利益から考える、毎日は、民主主義の方法という点で述べている。どちらも抽象的であるが、毎日の方がいくらか具体的と言えるとおもった。
どちらにも共通するのが、分断に対抗するものは、「皆で決めたという意識」というものである。高橋源一郎「僕たちの民主主義なんだぜ」の影響だろうか。あの香港の学生運動についての論述からである。

私の民主主義についてのバイブル、昭和22年文部省著作「あたらしい憲法の話」では、民主主義の正当性について、「一人の人が決めるより、多くの人が話し合いで決めた方がより正しいことが出来る」と説明している。私は、これに同意する。この考えかたには、つまり民主主義には、国民一人一人が、賢い判断が出来ると言う前提がある。つまり、日本国憲法は、「国民に賢くあれ」と要求しているのである。多くの情報を知り、他との冷静な論議をして正しく判断する個人であれと要求しているのである。こうあるべきなのは当然であるが、これは難しい。
難しいことは分からないし、考えたくないし、考えてもわからない。仕事があるし、生活があるので忙しい。普通の人は、こうである。(この意味で、「憲法には権利のみあって義務がない」なんて言う人は、うそつきか馬鹿なのである。憲法は、恐ろしいことを国民に要求しているのである)
憲法の要求と我々のダメさを何とかする一つの解答は、政治の拮抗状態をつくりだすことだと思う。これが赤点を免れる一番楽な方法である。現在のように巨大与党と弱小野党ではまずい。一つの考えで物事を進めることになる。拮抗状態で、専門の人たちに一生懸命考えるように(それで食っているのだから)してもらうのである。
政治なんてめんどくさい、分からないという人は、巨大与党を作らないようにすればいいと思う。お互い激しく論争して、少しは論点が整理できるのではないか。そしたら選びやすくなるのじゃないか。ひどい間違いは起こさないんじゃないか。そう思う。政権交代もいい。マスコミも批判的、そうでなくとも客観的報道を心がけるべきである。その意味で
政権無批判の情報垂れ流しは、マスコミとして価値が低い。そして絶対手放しちゃいけないのは、表現の自由である。その意味で秘密法は廃棄すべきである。

(4)日経新聞
(まとめ)
現在の日本経済は、一人当たり名目GDPでアジア4位、世界27位、30位に韓国がいる。90年代はずっとアジア一位、世界でも10位以内であった。アベノミクスが登場してからも、ビジネス環境は悪化している。その理由は、グローバル化とIT化という波に乗り切れていないからである。この打開の一つは、欧州に模範を求めて見るのが良い。
たとえばスイス。スイスは一人当たり名目GDPが日本の2倍だ。スイスは外国人留学生が多い。優秀な人材を引き付ける魅力が必要だ。も一つは価格競争を無視し、ブランドを磨くことだ。農業ではオランダを参考にすべきだ。国内市場に依存しないグローバル農業
を目指すことだ。

(感想)
経済に集中していて分かりやすい。しかし、日本の凋落ぶりには驚く。日経はその打開策としてヨーロッパを模範とせよと言う。
私は昨年初めてヨーロッパに行った。その時、スイスやフランスに比べて日本は何で食っていくかということがひどく気になった。その時私が気になったのがヨーロッパの農業とブランドであった。(「2015年7月ローテンブルクの朝に」拙ブログ参照)その点で日経の主張に賛成する。安い労働力に頼らぬ稼ぎを考える必要がある。賢くないとだめだ。