戦後を創ったある一つのもの-「夜あけ朝あけ」を読んで

白井聡「永続敗戦論」を読んで、(と言っても半分も理解出来なかったのですが)、思い出した本があります。

住井すゑ「夜あけ朝あけ」です。

そうして、再読(再再読、再々再読かもしれません)してしまいました。いつ読んでも、涙があふれる物語です。

作者と解説者(佐古純一郎)が言うとおり、私もまた悲しい(かわいそう)から泣くのではありません。美しいからです。それは、少しは、「悲しい」や「かわいそう」ということもあるでしょうけれども。

父母を亡くした中3(正司)、中2(武)、小6(えつ子)、来年学校(さとこ)、という4人の兄弟の話です。兄弟姉妹とばあちゃんは、ホントにけなげに、必死で生活をして行きます。美しい心です。戦争が終わってあまりたっていないころの、日本の農村の生活が丁寧に描かれて行きます。農民のエゴも描かれていきます。結局生活に困って、中学校を卒業した正司は、東京へ出稼ぎに行きます。
それは、しかし、極めて明るく前向きです。そして彼らには、戦後日本の矛盾や不平等を見据える澄んだ目が感じられます。(それは作者住井すゑの目なわけですが。)

正司や武やえつ子が、あるいは彼らの友達のみどりや恒夫は、大人になって目が曇ったかもしれません。
あるいは、大金持ちになったかも知れません。人を搾取する側に回ったかもしれません。あるいは労組役員や社会党共産党の中心的メンバーになったかもしれません。それでも、こんな少年少女が、貧しい戦後日本を豊かな日本にしたのも絶対間違いありません。(映画「男はつらいよ」のたこ社長や工員たちも)

「永続敗戦論」にこういう文章があります。
>「平和と繁栄」に酔い痴れる高度成長下の戦後日本の精神的退廃(それは本書が「永続敗戦」とよぶものだ)の元凶をそこに求めた・・・<とあります。これは、「昭和天皇の戦争責任を誤魔化したがゆえに、米国に永続的に従属するしかない日本の精神的退廃」という文脈で語られる中の文章です。私は、この白井氏の文章に同意します。
しかし、全国民が、精神的退廃の状態で、GDP世界2位を維持できないのも事実でしょう。

正司や武やえつ子の(一般国民の)血のにじむ、必死の向日的な努力が、40年間世界2位のGDPに象徴される、良き戦後日本を作ったと思います。