「このハゲ、ジッチ」、「中国人が盗んだ」−川土手散歩の雑感

「梅雨明け」した今日の日中、川土手を散歩した。梅雨明けというと、猛烈な暑さを想像するが、涼しい風が吹いている。気温は23℃くらいであろうか。

この数日、日差しもなく、気温も低い。天気予報では、明日からも1週間ほど、最高気温が27/8度という。


ちょうど今は、稲の出穂期である。「寒さの夏はおろおろ歩き」と宮沢賢治が歌った冷害のパターンである。天明の大飢饉では、わが相馬藩では、人口が3分1になったという。1931(昭和6年)の冷害は、娘の身売り・欠食児童という悲劇を生んだ。それは、「満蒙は日本の生命線」という世論を盛り上げ、同年の満州侵略=満州事変、その翌年の、クーデター=5・15事件と傀儡政権=満州国建設の原因の一つとなった。満州国建国は、アジア・太平洋戦争の遠因である。

それから考えると、今はいいなあ。東北が冷害でも、コメを他地方・他国から移入・輸入できる。第一、品種改良により、少々の冷害でもコメはとれる。コメ以外の多くの食べ物が手に入る豊かさがある。経済の発展と、技術の進歩と自由貿易体制のおかげである。

そんなことを考えながら、川土手を歩いていくと、向こうから女子高校生が二人乗りでやってくる。こちらで道を譲り、通りすがりに「二人乗りは、ハンドル取られて危ないよ」と声をかけた。けれど、むっとした感じで、無言で通りすぎていった。まあ、今どきの高校生、そんなもんだろうと思った。そして約20年以上前、昔の市長が激怒していたことを思い出した。

その市長は、女子高校生の二人乗りを注意したという。そしたら「このハゲジッチ」といわれたといって、怒っていた。聞いていた聴衆は笑いをこらえていたかもしれない。市長は、ハエも滑りそうな・・で、「やかんから湯気」みたいだったから。あの市長を怒らせた連中、あの「このハゲー」と絶叫した、自民党の国会議員と、同じ年代なんじゃないのか。

今の女子高校生の方が、少しはいいんじゃないか。

しばらく行くと、恐らく70を大きく超えた女性に声かけられた。

彼女「この川、鯉がいっぱいいるんだ」
俺「うん、おっきいのいっぱいいる」
彼女「中国人が、盗んでいくんだ。おら、もらったって食わねのに。汚ねえべ」
俺「若い中国人の女の子だべ。大したもんだ。生活力あるなあ。昔は、日本人も、川で魚を獲って食べたもんだ」
彼女「そうだったかなあ」

これまた20年ほど前、我が家の前の堀で、中国人の若い女性たちが、網で鯉を獲っていた。勿論食べるためである。彼女たちは、スーパーの閉店間際やってきて、売れ残りの野菜を格安で買っていったと聞いた。日本の若者に比べて、生活力あるなあと思った。

それにしても、この老女の「中国人が盗んでいく」という言葉に、私は考え込んだ。

この川の鯉は、彼女のものではない。放流したわけではないので、誰のものでもない。天然自然のものだ。日本人はもう何十年も、誰も獲らない、なのに、彼女はなぜ「中国人が盗む」というんだろう。盗みとは言えないのに。

彼女の、中国人への蔑視と恐れを、私は感じた。それは、日本人の一部にある感情だろう。

相馬にいる若い中国人女性は、縫製工場で働いている。おそらく安い賃金で働いているだろう。銀座のコンビニの店員は、王さんと孫さんであった。中国人は、日本人が毛嫌いする職種で働いている。彼らは、働いて所得税を納めている。勿論消費税も払っている。日本国を支えている一員なのである。

なのに、なぜ中国人への蔑視や恐れを感じるのか。

蔑視は、上述のとおり、労働力提供や担税者(税を納める)として、中国人が日本を支えていることへの無知からくるのだろう。日本人の方が、考えなしなのじゃないか。

恐れは、分かる。

日本は10年ほど前、中国にGDPで抜かれた。中国は、あっという間に日本の3倍になった。南シナ海東シナ海への軍事力による勢力拡大。俺も恐れる。

日本の10倍の人口、20倍以上の面積。中国に日本がGDPで抜き去られるのはやむを得ない。

しかし、中国に比べて誇るべきことが、日本にはある。

第一。自由・人権。中国政府の、自由を求めたノーベル平和賞をもらった自国民への弾圧。安倍政権の、マスコミ統制・教育統制・共謀罪制定等は、自由・人権を阻害する方向だけど、それでもまだ中国より自由・人権は十分あると思う。

第二。戦後の日本は他民族の弾圧・支配をしなかった。中国は、モンゴル・チベット少数民族を弾圧・支配した。しかし、日本でも、国内の
朝鮮民族、中国民族、アイヌ民族への差別があったし、今もあるので、これはどうかな。中国は軍事力・警察力を使っての弾圧らしいので、日本の方が断然いいかな。

第三。戦後日本は、他国への軍隊派遣をしなかった。平和的手段で平和を求めた。中国は、朝鮮への軍隊派遣、ベトナムへの軍隊派遣をした。インドとも戦った。今も軍拡のもと、支配権の拡大を図っている。戦後世界は、武力で解決することはダメとルールを決めた。それを守る国が日本である。

第四。戦後日本は、戦後世界の基本体制=国連体制へのもっと貢献度の高い国と思う。勿論中国よりもである。国連への拠出金では、経済力で大きく
中国に抜き去られた今でも、中国よりも多いのである。一番金を出している米国は、しばしば自己の主張を通すため、払わないなんて言った。この点日本は誇っていい。安倍政権では、何かで金出さないなんてごねたことあったけど、よくないな。(こんなこと言うとネトウヨは、「中国より多く金なんぞ払う必要ない」と怒るのだろうな)

まあ、思いつくことを述べた。ほかにも中国に勝る点はあろう。われら日本国民は、戦後日本に誇りを持っていい。世界の人々の、期待する国のトップクラスに、日本国があるという情報を見たことがある。

これからの日本人は、上述のごとく、戦後日本を誇っていい。しかしこれからの人たちは、わが町の若い中国人女性のように、たくましく生きてほしい。低賃金の競争では負ける。それは、負けてよい。高いお金を得られるよう、質の高い稼ぎができるよう頑張ってほしい。自由・人権・世界平和への貢献で中国の上を行ってほしいな。科学技術・医療技術・社会保障体制でも、世界に誇れる日本を作ってほしいな。

このように、他国と比較して日本を誇るという私の思考方法は、多分、団塊世代の激しい競争時代に生きたからだろうね。そちらにもいい点悪い点あり、こちらにもいい点悪い点あり、という思考方法の方がいいのだろうね。

いや、それ以上に、「日本人と中国人」、「日本人とアメリカ人」、「日本人と韓国人」、なんて、国民とか民族とかでひっくるめて考えるより、個々人の生き方の違いで考えるべきなのは間違いないと思う。
嘘つきの人間=(日本・中国・アメリカ)人と誠実な人間=(日本・中国・アメリカ)人などとね。中国を侵略した日本兵の中にも、悪事を働いた人間とそうでない人間がいる。敗戦国民の日本人に復讐した中国人と助けてくれた中国人がいる。占領した米国人にも、悪事を働いたものと日本人を助けてくれた米国人がいる。