戦勝国アメリカにも戦争の傷あとはあった。ー「我等の生涯最良の年」を見た感想

米国の映画「我等の生涯最良の年」を見た。印象深い映画であった。感動的な場面もあった。いい映画であった。その感想を述べる。

(1)この映画の本質は、幸せいっぱいの恋愛映画であると思う。太平洋戦争に従事して両肘先をなくした兵士(名前忘れた)は、、幼馴染の恋人の愛のおかげで、戦争のトラウマから脱出できて、幸せな結婚をする。20日間だけの新婚生活で出征した空軍大尉(名前忘れた)は、出征の間に生じた妻との隙間を埋め得ず離婚する。しかし、最後に真実の愛を得る。ハッピーエンドは、俺は好きだな。

(2)勝者にも、戦争の影響があった。空母に載っていた海軍兵士は、両肘を失ったばかりでない。その障害により、自閉気味になり苦しむ。自分は、普通じゃもうない。愛する資格もない。迷惑をかけるだけだと、幼馴染の愛を拒否する。しかし、幼馴染の恋人は、彼を支え続けようとする。彼女が、次の日遠くへ行くその夜に、海軍兵士は自分をさらけ出し、彼女はそれをすべて受け入れ、二人の愛は成就する。このようにうまく言ったケースもあろうけれど、そうでないケースもあるだろう。この二人もどうか?のちの日本の五体不満足の彼のようにならないか?


(3)勝者にも、戦争の悲惨はあった。空軍大尉の妻は、出征中にその寂しさからか浮気をする。帰ってきた大尉は、戦時の体験からしばしうなされる。彼は、帰還途中で出会った陸軍軍曹(名前忘れた)の娘と愛し愛し合う。結婚中の彼は、陸軍軍曹の求めに応じ、その娘との恋愛を打ち切る電話をする。

この場面は秀逸だなあ。素晴らしい。義手の海軍兵士がピアノを弾く。それを見ている陸軍軍曹(父親)は、実はピアノを見ていない。空軍大尉が、自分の娘にお別れの電話をするのを気にかけている。その三者が一画面に映っている。観客もそれを見ている。空軍大尉は、次第にうなだれて、黙って店を出ていく。恋の終わりだ。観客もがっかりする。しかし、海軍兵士の結婚式に、空軍大尉は、陸軍軍曹の娘と再会し愛を成就する。このカタルシスはいいなあ。

(4)陸軍軍曹は、帰ってきた息子との断絶を感じる。息子は原爆に否定的である。この当時米国にも、「次の戦争は、原子戦争で人類の破滅」という感覚があったことを知った。

(5)陸軍軍曹が息子に持ってきた土産は、日本刀と「武運長久」の日の丸の旗である。この土産の提供者は、靖国の英霊である。どのような人か。その家族は靖国の父母、妻、子である。どこで手に入れたか。ペリリュー島でか。沖縄でか。どんな戦闘でか。日本軍による万歳玉砕でか。殺し合いだ。その結果の土産品だ。戦争の悲惨を思う。

(6)勝者の戦後も大変だったのだ。復員兵のトラウマ、就職難、復職する時のトラブル、軍需の減少による景気の後退。特に使われなくなった、分解を待つ爆撃機の群れは圧巻である。これでは軍需産業が次の戦争を欲するのも当たり前である。この映画の数年後の、軍出身大統領アイゼンハウアーの「軍産複合体に気をつけよ」という言葉を思い出す。空軍兵士の戦時中のコックピットの体験を思い出すシーンも極めて印象的である。恐怖であろう。彼がもらったドーリットル勲章というのも感慨深い。日本を初空襲した攻撃の責任者だ。彼の勲章の下には、ドイツ国民の惨禍がある。戦争は、すべきでない。

(7)不可解なのは、空軍大尉と義手の海軍兵士が、店に来た男をぶん殴る場面である。男は「上院は新しい戦争を警告する」という大見出しの新聞を持つ。そして、戦争に従軍した義手の兵士に、戦争に行ったお前は目を覚ませという。米国の戦争を否定する。「ドイツは英国をやっつけたかっただけ」「日本は共産主義をやっつけたかっただけ」という。戦争は、誰かの陰謀という。新しい戦争とはソ連との戦争だろう。この男は絶対平和主義者か?共産主義が嫌いで、独・日に、やらせるべきだったというのか?この男の考え、ひいては監督の考えがわからない。第二次大戦を、「ファッシズムに対する民主主義の正義の戦争」という米国の戦争観と違う戦争観を持っている米国人がいる言うことを描きたかったのか?私にはわからなかった。まあ、古今東西戦争に対する考えは様々である。