「雲外蒼天」という言葉を知ったー読書感想ー

貫井徳郎「灰色の虹
冤罪をこわいと思った。冤罪は、本人のみならず家族すべてを不幸にし生活を破壊する。刑事・検事・裁判官・目撃者それぞれがどうして冤罪という加害者になるのか結構納得させられた。作者が参考文献を良く読破しているのだと思う。まずは取り調べ段階の可視化がぜひ必要だ。

ラストで犯人は私の想像とは違っていた。推理小説としても出来が良い方だと思う。また前に読んだ「乱反射」同様、小説全体の構成が面白かった。

高田郁「みおつくし料理帖」シリーズ全10冊のうち9冊を読んだ。読んでないのは第9巻。これはyonnbabaさんご紹介の作品。
出来の良い時代小説と思う。「居眠り磐音」シリーズ全50余巻よりいいと思った。磐根の剣はあまりに強すぎる。磐根のすべての能力が超人的過ぎる。よって嘘くさい。剣は敵を一刀両断し問題を一足飛びに解決する。

「みおつくし」のヒロインは、味覚は天才的だが、創られる料理は努力の賜物である。彼女は、周りの多くの人に育てられ助けられて生きていく。超人的ではない。そこがよい。料理は、問題を一足飛びには解決しない。磐根よりほんとのことのように思われる。

この小説でよい言葉も教わった。「雲外蒼天」である。占い師は、幼いころヒロインの運命を「雲外蒼天」といった。「殆どが雲が垂れ込める困難な人生だけれど、雲の上には蒼い空がある。蒼い空が望めるよう努力せよ」というお告げであった。その通り彼女は努力する。まことに「身を尽くす」人生である。けなげと思う。

我等もまた、日本の現状を、「全天雲の中」のように感じるけれど、その雲の上の蒼天を信じて「身を尽くす」ほどじゃなくとも、テキトー、もとい、適切に努力しよう。

この小説で、良いまじないも教わった。狐を指型で作り、「涙はコンコン(来ん来ん)」とやることである。明後日生まれる予定(帝王切開)の内孫も盛大に泣くだろう。いつの時か「涙はコンコン」をやるつもりである。

高田郁「出世花」「蓮花の契り
印象深い小説であった。「みおつくし」のヒロイン同様、一生懸命に生きる女性の話である。仕事は納棺師。彼女も心を尽くして遺体を美しく飾る。その努力が様々な問題を解決していく。遺体を飾る仕事を尊敬に値する仕事と思った。

この仕事を選択した故、彼女は、愛慕する先輩僧との現世での恋の成就をあきらめる。しかし、仏弟子の兄妹として生きるのも愛の一つの形であると思った。

母子の愛というのもまたこの小説の大きなテーマであると思った。特に先輩僧の、母への愛ゆえの出家というのが心に残った。