音楽を文章で表す力・・・「蜜蜂と遠雷」

面白い小説であった。

その面白さの第一は、漫画「幽遊白書」の面白さと同質と思う。つまりはバトルの面白さである。(怒られるかな)

というのは、ピアノのコンクールでも、一次予選から三次予選、さらに本選で、厳しい競争で出場者の勝ち負けが決められるからである。ここでは、出場者たちの超絶技巧・超絶能力によるバトルが語られるのである。出場者たちの、観客や審査員にたいするアピールの様子(の描写)が面白い。

第二は、主要な4名の出場者の出自・体験・個性の際立ちである。それと同時にそれぞれが共鳴し合うということが感動的である。

なぜ感動させられるのか。それは、お互いがお互いを刺激し合い、高め合うからである。認め合い、高め合うから、感動的なのである。ここは「幽遊白書」と大きく違う。実際の音楽界はどうであろうか。

 

第三は、クラシックを全く知らない私でも、クラシックっていいなあと思わせらたことである。クラシックは、宇宙や自然や人生をこんなに豊穣に、饒舌に語るものであろうか。私にはわからない。けれど、作者恩田陸の音楽への造詣の深さと文章力のすごさにほんとに感心する。

 

第四は、私にとって、遠い存在である音楽界が実に興味深く紹介されていることである。俗であるが、音楽界はほんとに金がかかるなあ、と思った。孫が音楽へ進みたいなんて言い出さなければいいがね。

 

感動したのは、小さいころから才能を発揮していた栄伝亜夜の復活である。彼女は、10代前半に母親の死によって人前でピアノを弾くことができなくなっていた。周りからの支えや、このコンクール出場者たちとの共鳴で、復活する。

 

少女の栄伝亜夜がピアノの世界に導いた男の子が、青年となって登場する。この二人が、再会する場面は美しい。私はこの場面に一番感動した。この青年が、100名前後の出場者のトップであり、2位が栄伝である。

 

映画になったそうであるが、映画で表すのと文章で表すのではどちらが難しいだろうか。クラッシク音楽の豊かさ・美しさ・人を感動させる力を表現するのは。

 

とにもかくにも、恩田陸の「音楽を文章で表すその文章力」に感動した。