「氷点」「続氷点」/汚染水海洋放出

家の新築問題の行方如何にかかわらず、終活のため本の整理をしています。

「氷点」上(文庫本)という未読の小説がありました。読み始めると、これが面白く、続きを探しましたが、我が家にありませんでした。そこで、図書館に行って、「氷点」「続氷点」(単行本)を借り、一気に読みました。実に久しぶりの経験でした。それだけ、力のある小説なのだと思います。

 

三浦綾子は、「塩狩峠」という小説くらいしか読んだことがないのですが、この「氷点」が、処女作とのことでした。処女作には、その作家の、その後の展開の萌芽すべてが含まれるといいますが、そんな感じを受けました。

 

小説の設定は、実の娘(辻口ルリ子、3歳)を殺した犯人(佐石土雄)の娘(陽子)を引きとって育てる医者の一家(辻口啓造・夏枝夫妻)という設定です。無理のある設定ですが、無理を感じさせない三浦綾子の力量です。話は、辻口夫妻・陽子・その兄の徹を中心に陽子の成長に従って、破局に向かって進んでいきます。

 

「氷点」は、19歳になった陽子が、自分の罪業を知り、自殺を図るというところで終わっています。

 

「続氷点」は、命を取り留めた陽子が、兄徹とその友人北原との愛、さらに実の兄弟(特に弟三井達哉)と実母(三井恵子)との出会いが中心となります。そうして佐石土雄のほんとの娘順子との出会いも描かれます。これまた無理のある設定ですが、それほど気にならない三浦の力業です。

 

「氷点」「続氷点」のテーマは、人間の罪と赦しと愛と言っていいと思います。

 

19歳の陽子は、父親の殺人という罪を見据え、さらに人間存在の罪を意識して、自殺を図ります。

 

彼女は遺書の中で「たとえ、殺人犯の娘でないとしても、父方の親、そのまた親、は母方の親、そのまた親ととたどっていけば、一人や二人は、悪いことをした人がいるでしょう。自分の中に一滴の悪も見たくなかった生意気な私は、罪あるものであるという事実に耐えては生きていけなくなったのです」と言います。

 

人は、こんなにもおのれの罪を自覚すべきなのでしょうか。

 

私が、この小説を読んでいる最中、日本国は、F1の原発事故の処理水の海洋放出を決定しました。その理由を、「もはやFIに保管は無理」、「地元の復興に邪魔」、「理解を得る努力をする」、「基準以下に薄めて放出する」、「風評被害への対策をする」、「学者が安全と言っている」、「新たな組織を作って万全の対策」等々言っています。

 

おいおい、大事なことを忘れているでしょう。

国と東電が「悪いことをした」という自覚がないことです。彼等には罪の自覚が全くない。「悪いことをした」という気持ちがあれば、海洋放出を決定する際、もう原発は停止する。「これ以上放射性物質は作らない」と決心すべきです。

 

私は、現実的には、福島県沿岸での海洋放出も、やむなしで、「あり」と思ってます。F1周辺の保管場所の確保の努力、その他の誠実な努力の結果、福島県沿岸からの海洋放出は、やむなしということもあると思っています。

 

 

その場合、絶対必要なのは、原発停止の表明です。悪いことをしたんだから、悪いことの大元、原発を停止しますという決心です。

 

福島県民の皆さま、世界の皆さま、地球さん、悪いことをしました。許してください、

という自覚をもって行動すべきでしょう。

 

「汚染水」を「処理水」なんてごまかして言うことが、もう「悪いことをした」ということの自覚がありません。この水は、人為的な原発事故で発生した放射性物質で汚染した汚染水でしょう。罪の水でしょう。放射性物質を増やしてさらに罪を重ねるのですか。

 

人はどうしても悪いことをします。真面目に考えれば、悪い事であったと思う行為をします。その場合、ゆるしという課題が起きます。

 

「続氷点」の最後は、陽子が、厳しく拒絶した実母(三井恵子)ヘの(お母さんごめんなさい)という電話を掛けようとする場面で終わります。

 

三井恵子は、夫出征中、別の男性との恋愛の結果、産んだ陽子を孤児院に捨てます。これを陽子は許す気持ちになり、自分が冷たくしたことを許してほしいと思うのです。

 

作者三浦綾子は、この罪とゆるしを、神を前提に考察してます。しかし私は、不遜ながら神を想定しなくと、罪・ゆるしはあるのでは、と思ってます。私は不遜でしょうか。

 

陽子は、血のつながらない兄徹と北原との愛の間で揺れ動きます。陽子は、徹の方を愛しています。しかし、陽子は北原を選ぶようです。北原は陽子を守ろうとして片脚を失います。その事が、北原を選ぶ決定打です。

 

ありうると思うけど、これは不自然なんじゃないかなあ。

 

どうなんだろう。夏目漱石「それから」では、主人公は、恋人を友人に譲ったが、それを「間違いだ、自然な感情に従うべきだ」として、彼女を取り戻す。世間に背を向けても。

 

陽子も自然な感情に従った方がいいと思うがなあ。

 

陽子の選択は、将来罪を生むかもしれない。

 

陽子とその夫北原と陽子の最も愛する兄徹を中心とした「続々氷点」があるのかもしれない。そのテーマは、自然な愛と意志的な愛の葛藤だろうか。罪に目覚めた達哉や

 罪を深く自覚した順子(徹を愛している)をわき役として。