「牟田口廉也」読書感想

「米内光政」(上下)を借りるついでに、図書館で、広中一成「牟田口廉也」(星海社)を借りてきました。

「米内」と違って、なかなか読み切れずにやっと昨日読了しました。分量で言えば「米内」の4分の1くらいの量と思うのですが、どうも読みにくかったです。

その感想を書いておきます。

(1)「愚将」はいかにしてうみだされたか、というのが副題でした。興味深い問いかけです。筆者の答えは、昭和陸軍の組織体質にあった、組織の不合理性にあったということです。具体的には、「不健全な人事」「不可解な決裁」・・・と筆者は言っています(扉で)。結語部分で筆者は、「組織の人事が能力に応じたものでなく、人間関係によって左右されることは、現代社会でもたびたび起こりうる。その行く末が人々にいかなる運命をもたらすかは牟田口がたどった人生が暗示しているといえよう」と言っています。

 

それはそうでしょうけど、本文全体を読んで、あまり説得力を感じませんでした。組織の不合理性なんて古今東西普通にあると思うんです。飲み屋での話は、人事・人間関係・決裁の不合理性とか理不尽さへの愚痴ばかりでしょう。戦後の平和な高度成長の夢に浸って過ごせた(笑)私の現役時代もそうでした(笑)あの途方もない、インパール作戦の悲惨さの説明には、弱すぎると思いました。

 

(2)阿川の海軍提督3部作(米内・山本・井上)でしょうか、半藤一利でしょうか、忘れましたが、ある将兵が、牟田口の話になると、「体を震わせ」怒りをあらわにした

とありました。この本を見る限りでは、牟田口個人に強烈な怒りをぶつけるのは、どうもおかしいと思いました。有名なインパール作戦だって、牟田口(第15軍・3師団を持つ)の上層部(ビルマ方面軍さらに南方軍)、最終的には参謀本部が承認したわけですからね。

 

(3)牟田口が日中戦争のきっかけ=盧溝橋事件で事件拡大に大きな役割を果たしたことは知りませんでした。なぜ拡大してしまったか、根本には牟田口の中国蔑視があると思いました。中国蔑視は、日本国民全体の偏見でした。つまりは、なぜ日本国民は中国を蔑視し過小評価したかが根本問題と思います。

 

(4)マレー・シンガポール侵略作戦で一軍の指揮官として活躍したとは知りませんでした。マスコミが彼を「常勝将軍」と持ち上げたのも悪かったと思いました。

 

(5)この本は、牟田口について書いていますが、盧溝橋事件・マレー作戦・ビルマ作戦全般についても書いています。事件・作戦の経過についても割と詳しく著述しています。ですから、どちらも中途半端な感じを受けました。

 

(6)私は、太平洋上での戦いは結構読んでいるんですが、大陸や東南アジアでの戦争は殆ど読んでません。こちらの方が、大きなエネルギーを使ったと思いました。占領した後、そこを支配しないといけないわけですからね。

 

そこで思ったのは、中国の広さ・東南アジアの広さでした。これを考えると、満州事変以来・アジア太平洋戦争は、やはり無謀な戦争としか言いようがありません。

 

戦後の日本は、東南アジアは勿論、満州どころか、朝鮮・台湾・樺太もなしに、40年間

米国に次ぐGDP世界2位の大国となりました。

「満蒙は日本の生命線」という考えが間違っていたのだと思います。