島田雅彦「退廃姉妹」を読んで、「戦後茫漠」という言葉が頭に浮かびました。
この小説は、
敗戦直後、父親が戦犯容疑で逮捕された女学生姉妹の生きざまを描いたものと言えそうです。
父親は映画関係者でしたが、敗戦後は、政府公設の米兵相手の慰安所の売春婦斡旋の仕事をしてました。戦犯容疑は、米兵の肉を食べたというものです。
妹の方は、米兵相手の売春婦になります。日本政府公設の慰安所ではなく、自分の家を慰安所にします。同じ運命の二人の若い女性と自分の家で慰安所をつくります。
こんな風に紹介すると、暗い小説と思われるでしょうが、描写は明るいんです。この妹のバイタリテイ―はすごい。いや、この女性たちと言った方がいいのかな。井上ひさしの「東京セブンローズ」を思い出します。
姉も、慰安所兼自宅の管理人になります。姉は、戦中慶應の学生と淡い恋に陥ります。しかし、この学生は、学徒出陣し特攻隊員となります。
特攻から生き残って帰ってきたこの学生と姉は再会します。しかし、彼は精神的に崩壊していました。犯罪を犯して警察に追われます。二人は心中しようとします。・・・。
この小説は戦争直後の無茶苦茶な日本を描きます。没義道な日本を描きます。
荒廃した日本を私は体験してません。ただ極度に貧乏だった日本を知ってます。その後の上昇する日本、経済大国としての日本、衰退し始めた日本を私は体験してます。
敗戦から随分と時が経ちました。日本も大きく大きく変わりました。
戦後茫漠。ただ出発点は忘れてはいけないと思います。
妹の売春婦仲間のお春の言葉が強烈です。
「いったい誰のおかげで日本はこんなに繫栄したと思っているんだ」
そうです。戦後日本の繁栄は、弱いものの犠牲の上に築かれたものでした。
この小説には、上原良司が出てきます。姉の恋人特攻崩れの戦友として出てきます。
上原良司は、「きけわだつみの声」(戦没学生の手記・遺書)の実在の人物です。彼の遺書が長く引用されます。
「きけわだつみの声」は私のバイブルです。何べんも何べんも読みました。
上原良司の言葉が私に突き刺さります。
「ただ願わくば愛する日本を偉大ならしめん事を国民の皆様にお願いするのみです」
彼は、全体主義・軍国主義の大日本帝国を否定し、自由主義・個人主義に憧れていました。戦前戦中には稀有な人でした。しかし、その自由主義・個人主義の米国に特攻隊として出撃します。
何という苦衷でしょうか。
私達は、上原良司の命を懸けた負託にこたえているでしょうか。
参考
日本人従軍慰安婦の叫び・徴用工の解決には、西松訴訟事件を参考に、またはICJに任せよう 編
日本人従軍慰安婦の叫び・徴用工の解決には、西松訴訟事件を参考に、またはICJに任せよう - A0153’s diary