ゼレンスキー大統領の演説は、被害状況、日本の経済制裁へ感謝、継続要請、復興への協力等であったが、いまいち発信力は弱かったという印象がある。事前に日本政府と発言内容について、話し合いがあったのか?彼は、国家元首だろう。制限なんて無礼である。日本への悪口だっていい。好きにしゃべらせろ。それが自由というものだろう。私達はそれを受け取り、自分たちの対応を考えればいいだけだ。その自信がないのか。
まあそれはそれとして、私は、次のことには、印象を受けた。
国連が侵略を防げなかったことへの口惜しさと国連改革の必要。
新しい平和維持へのツール構築の必要。
これは私の問題意識でもあるからだ。
今現在の核心の問題は、核大国の侵略に、(安保理ではなく)、有志連合で経済制裁という方式でどこまで対応できるか、ということだ。
ウクライナが、自国の利益をかなり損なった条件付き降伏、逆に有利な停戦協定あるいは講和条約を結んでも、有志連合は経済制裁を続けるという事だ。
侵略は悪いことだからだ。
ロシアがこれによって政権転覆、長期の衰退、あるいは長期の厳しい経済状態になったとしたら、「有志連合の経済制裁は有効」というメッセージを世界に発信することになる。そういう意識で経済制裁を真剣にやるべきである。
ところが、日本政府は、ロシアからのカニなどの魚介類の輸入を認めるという事だが、それではダメだ。漁業者に補償をして輸入禁止とすべきだ。そのぐらいの覚悟でやるべきだ。
日本は、軍事力で対応しないというのが国是であった。それなら、有志連合の経済制裁に全力を傾けるべき。それが中国の侵略を抑止することとなる。
バカが、核共有とか敵地攻撃能力とか軍拡とか騒いでいる。これらはいずれも金がかかり緊張を高めるだけだ。無限連鎖の軍拡になってどうする。
ロシアのウクライナ侵略に触発されて、日本の安全保障についてどう考えるかという点で、3つの毛色の違う本を読んだ。その大要と感想を書く
まずは、
(1)小川和久「日米同盟」のリアリズム(文春新書、2017年)
裏表紙の紹介によると、筆者は日本初の軍事アナリストで、日本政府の政策立案にかかわったこともあるとのこと。3部に分かれている。要点をまとめ、要点をまとめられない時は、印象に残った部分を取り上げ、最後に感想を書く。
第一部 世界最強の日米同盟
彼の基本的考えは、「自主防衛は幻想であり、日米同盟が北朝鮮と中国を抑止しており、日米同盟を有効活用するのが最善」という事である。
(あ)自主防衛が幻想の理由
〇敵基地攻撃能力・・・莫大なコストがかかる。米国が認めない。
航空機での攻撃には、制空機・作戦機・護衛機・給油機・偵察機等必要で、2000機~3000機の増強が必要。(現有勢力は、作戦機410機)
潜水艦からのミサイル攻撃の方が実現性あり。ただし米国はこれに否定的。なぜかというと、日本に戦争の引き金(先制攻撃)を持たせることになるので、米国の安全を脅かすから。
〇核武装論・・・莫大なコストがかかる。世界が認めない。
これは、机上の空論である。核保有には、日米同盟の解消、NPT脱退が必要で、日本は世界から制裁を受け孤立化する。核を守るための通常兵器の増強による負担は大きい。核シェアとは、小型戦術核兵器の共有のことである。抑止力に必要な準戦略核兵器は、米国が認めない
〇自衛隊は自立できない構造である・・・ただし、筆者はその論拠を示していない
(い)米国にとって日米同盟は死活的存在、日本の米軍基地は米本土並みの戦略基地
(例証) 燃料・・日本国内での燃料トータル1100万バーレル(海自の2年分)
弾薬・・・11万トン(自衛隊全てより多い)
日本の駐留経費負担 44億ドル、CF.ドイツ15億ドル、韓国8億ドル、イタリ
ア4億ドル、イギリス3億ドル(2002年)
スクランブル任務は航空自衛隊(米軍はやらない)→すでに集団的自衛権を
行使している
第2部 北朝鮮VS日米同盟(印象に残ったことを上げる)
〇1994北朝鮮危機の真相・・日本は、集団的自衛権だけでなく集団安全保障で
も行動すべき(韓国・日本にいる米軍は、変形の国連軍、日本は国連軍と地
位協定を結んでいる)
〇北朝鮮の軍事力の実像・・・核兵器と特殊部隊という非対称的な軍事力を持
つ。北朝鮮は朝鮮戦争後、一度も南へ進撃する軍事力を持ったことがない。
〇日・米・韓の「戦争力」と金正恩斬首作戦・・日本の戦争力には触れていな
い。金斬首作戦はトクトクと説明している。筆者は軍事が好きなんだ。
〇米朝チキンゲーム・・・2017年の北朝鮮危機の経過説明(よくわからず)
〇北朝鮮はインド、米国・中国型経済成長を目指す・・・核武装で経済成長。
第3部 中国VS日米同盟(印象に残った部分をあげる)
〇東シナ海で中国を抑え込む日米同盟・・・「日米との戦争は不利益、中国は
戦争をしていない時に発展、尖閣は棚上げ」というのが中国の考え。
〇南シナ海での米中衝突はあるか→当たり前であるが、筆者は答えていない。
南シナ海では、中国・台湾・フィリピン・ベトナム・マレーシアなどが
それぞれの島・岩礁・湾等の領有権をめぐって主張が対立している。
〇中国の戦略は、「三戦」と「A2/AD」
三戦とは、宣伝戦・心理戦・法律戦であり、「A2/AD」とは、中国本土に近
いところで米軍の接近を阻止し、その外側では、米軍の行動の自由を奪うと
いう作戦。そのため、空母群、対艦ミサイル、ステルス戦闘機の充実を図っ
ているが、米国にまだだいぶ劣っている。中国の全潜水艦は日米の海空戦力
により常時捕捉されている。
感想
〇当たり前だけど、軍事評論家という感じで、裏話や解説をしている。
〇中国の戦略「三戦」は、中国も軍事力でない闘争を重視していることを示す。日本もこれに対抗して頭脳戦をしなければならぬと思った。
〇東シナ海でも南シナ海でも中国は抑制的というのは、印象深かった。その一例が西太平洋諸国で結ばれた「海上衝突回避規範」。例のレーダー照射禁止などが謳ってある。
〇現代兵器の点ではよくわからぬことがあった。
〇「日米同盟をやめて自主防衛というのは幻想」という筆者の考えは、その通りだろう。しかし、彼の言う自主防衛とは、通常兵器の強化、核武装、敵地攻撃能力保有などという軍事力によるものである。軍事アナリストらしい発想である。しかし自主防衛は、中国が「三戦」を重視するように、軍事力によるばかりではない。経済力・科学技術力・外交力・文化力・宣伝力・道義力など様々あろう。
〇今のロシアのウクライナ侵略でもわかるように、宣伝戦・法律戦も重要と再確認。
〇下線部のように、矛盾した記述もある。北朝鮮が核武装するのは、通常軍事力に金をかけず、経済発展をするためと言っておきながら、日本の核武装では、お金の負担が大きいと言っている。どっちなんだ。
〇肝心の台湾進攻については、言及なし。残念。画竜点睛を欠くとはこのことか。
〇私の一番の関心事である、「日米同盟」は、日本に対する侵略を抑止するのか、逆に米国の戦争に巻き込まれるのか、という事にはまったく触れていない。この人には、こんな発想はないのだろう。「日米同盟」は、すでに与えられた絶対動かせないものという考えから一歩も抜け出ていない。我々はここを考えなければならないと思う。
参考 古い拙ブログです。「日米同盟」の深化=安保法制についての私の考えです。
安保法制は、抑止力強化になるか、戦争をもたらすか 意見
安保法制は、抑止力強化になるか、戦争をもたらすか - A0153’s diary