私は30年ほど前、零戦に関する柳田邦男の長大など著作を読んだ。
即ち、「零式戦闘機」「零戦燃ゆー飛翔編」「零戦燃ゆー熱闘編」「零戦燃ゆー渾身編」である。
この著作は、あの太平洋戦争の、航空上の主役=零戦の栄光と挫折を、日米両側から、戦略・戦術・戦史も含めて描いた超大作である。特徴的なのは、日米両国の技術開発の違いを詳述していることである。それこそ、柳田の渾身作と思う。
30年ほど前に読んだときは、日本びいきの私は、零戦の大活躍に惹かれて読んだのであるが(日本すごい!)、戦争後半の苦悶・苦闘にがっかりしながらも、その健気さに感動もした。
新築に伴い、自分の蔵書を10分の1に減らした今でも、これらはある。ただし「零式戦闘機」はない。おそらく捨てたのだろう。
近頃、「零戦燃ゆー飛翔編」を読んだ。
この飛翔編は、太平洋戦争開戦からミッドウェイ海戦さらに山本五十六長官の戦死まで
を扱っている。
零戦の絶対的優位から米軍機と対等、さらに劣勢の兆しという段階を描いている。
私はこれを再読して、この本を、今の日本の現役世代特に若者世代に読んでもらいたいと思った。
何故なら、日本は、1980年代から1990年代初頭、世界に冠たる経済先進国であった。それはちょうど日中戦争から太平洋戦争初期の、零戦の圧倒的強さになぞらえることができる。
その30年後、日本経済は停滞・没落し、基本的指標で日本は先進国から脱落しつある。これは太平洋戦争後半から敗戦までになぞらえることができる。
どうして日本経済は没落したか?その要因がこの零戦の零落から読み取れると思うのだ。
というのは、零戦の零落の根本原因の中に、日本国民の欠陥が表れていると思うからだ。
だから、是非現代の現役世代特に若者世代に読んでもらいたいと思う。」
少し例をあげよう。
珊瑚海海戦に関する著述で柳田は、「戦勝気分に浸っていた連合艦隊司令部は、珊瑚海海戦で米機動部隊を壊滅できなかったことを、ひたすら司令官の弱気のせいにし、・・・重要な教訓を読み取ろうとしなかった。・・・そのころワシントンでは戦闘記録の詳細な分析に取り組んでいたのだった」
米軍は、零戦の恐るべき強さ、それに比べて米軍機の弱さを直視し、分析し、対策を練っていく。やがて零戦を圧倒的に凌駕するF6Fヘルキャットを作る。
この膨大な著作が15年をかけて、1990年(平成2年)に完成したのも興味深い。日本の絶頂期に書かれたと言っていい。柳田は、日本の絶頂期に、日本の弱点を厳しく見つめていたのだ。零戦の零落を描くことで。
われら団塊を指導した戦前・戦中派、われら団塊世代、われらに続く世代は、日本の絶頂期に、「戦勝気分に浸った連合艦隊司令部」であったのだ。その後の30年間我らは敗れ続けた。
もはや戦前・戦中派・団塊は、社会を動かす力を失った。その後の世代に期待するしかない。
我らに続く世代、特に若者世代は、われらの失敗を分析し対策を冷静に考えてほしい。その参考として、この柳田の著作は大いに役立つと思う。ぜひ読んで欲しい。