続けさまに、とても面白い本に当たった。どちらも、すごい人達の物語である。
「凍」は、実在の登山家、山野井泰史・妙子夫妻によるヒマラヤのギャチュンカン登山での大激闘を描いたものである。
すごいとしか言いようがない。凍傷で、泰史は手足の指20本のうち10本、妙子は18本の指を失った。生還できたのが不思議なくらいだ。生を諦めない強い心に打たれた。
もともとそんな危険を承知の上、二人は挑んだのである。なぜ挑むんだろう。人の心の不思議。
著者沢木耕太郎の臨場感あふれる筆力にも脱帽した。
「君が異端だったころ」は、小説家島田雅彦(本名)の自伝的私小説である。
私の少年時代、青年時代と比較して、島田のそれは、なんと波乱万丈なことか。こんな青春もあるのか、と羨望しきりであった。勿論俺には出来っこない。
小説家とはこんな風にして出来上がるのか、と納得した。常人ではない。
「小説、とりわけ私小説は嘘つきが正直者になれる、殆ど唯一のジャンル」と、本人がいう通り、話は、ほんとのことだろう。
「退廃姉妹」「悪貨」「カタストロフ・マニア」「人類最年長」「パンとサーカス」「虚人の星」と、彼の小説を読んだが、これらには、若いころの彼の体験・思考が生きている。
大岡昇平、大江健三郎、安倍公房、佐伯一麦、山田詠美、中上健次等々、有名人との交流、というか有名人の生態も、生々しく描かれていて実に興味深い。