田んぼのど真ん中で、見知らぬ女性が、「おーい」と大声で私をよぶ。

夜明けを待ちきれずに、6時ちょい前散歩に出かけた。

今日は、西方の田んぼコースである。

人にはまったく出会わない。

このコースでいつも興味を惹かれることがある。1枚の田んぼの端に、明らかに加工されたと見える石が5個くらい固められている。

いつ頃どんな人が加工して、何に使ったものかな?とぼんやりといつも考える。

 

その道をも少し行くと、ずっと遠くから大きく手を振りながら大声で「おーい」とよぶ人がいる。小柄なので、女性だろう。はて、この辺で私を知る人はいないはず。後ろを見ても左右を見ても誰もいない。俺を目当てに来ている。小走りにやってくる。

なんだ?人間違いか?

私は、立ち止まって、その人が来るのを待った。やはり小柄な女性である。私は、「どなたかをお探しですか?」と聞いた。

「いや、誰もいない所に人がいたので、・・・・」

「○○さんかと、思った。△△さんと思った」

やはり人間違いか。

その人、相当なおしゃべり好きなようだ。

生まれは、仙台。相馬の松川浦に嫁いできて、漁協の仕事を60歳までやって、知人の相馬市長から頼まれて、彼の経営する病院で10年。さらに彼の経営する老健施設で10年

ご飯作りで働いたのだそうだ。80歳でコロナでやめたのだそうだ。

すごいもんだな。80まで働くなんて。現在84歳とのこと。

旦那さんは、車で列車と衝突し死亡とのこと。約10年前。

そんな人もいるんだ。本人も免許は返納しているとのこと。

舅は、市議会に3度出て、1度当選、2度落選。

松川浦の自宅は、東日本大震災で流され、息子の家に今引き取られているとのこと。

この震災で妹は、仙台の北、蒲生海岸で流され死亡とのこと。

そして、毎日、妹に手紙を書くのだそうだ。いつも彼女、答えてくれるとの事。

え、この人大丈夫?と思って聞くと、

「今日は、電球を取り換えに踏み台に登るので見守って」というと、「安全に登らせてくれる」のだそうだ。

なるほど、そういう事か。

乳がんで片方の乳房を取ったが、健康とのこと。健康の為、一杯ご飯を食べ、午前中は、家の掃除や洗濯や片付けをし、午後はゆっくり休む。

大谷や若元春や若隆景(大相撲)のファンだそうだ。3時ころにお風呂に入るのだそうだ。新聞に投書して、福島民報や読売に採用され、読売への投書は、海外にも紹介されたとのことだ。

 

すごい人だ。

 

そんな話を、田んぼの真ん中で二人っきりで、約30分聞いた。

 

別れ際、「また会えるといいね」と言われて「ええ」と答えたが、会いたいような会いたくないような。

 

今私はこう思っている。

今朝の話は本当か。彼女は認知症かも、いや俺はひょっとして、キツネかタヌキに馬鹿にされたのでは、と。半分そう思っている。