いい小説には、その小説すべてを表す一言があるような気がします。
近頃読んだ小説では、
「死んでてくれ、どうか死んでてくれ。お父さん」
これは、宮部みゆき「火車」の中の、主人公であり、殺人者である新城喬子の言葉です。
主人公という言い方は、少し誤解を招くかもしれません。ストーリーは、休職中の警官が、謎の女性を追うという仕立てです。
甥に「消えた婚約者を探してくれ」、という依頼を受けて、警官は、女性を探しますが、たどり着いた女性は、全くの別人でした。では、消えた婚約者は何処へ行ったか。さらに調べていきますと、その別人も、行方不明なのです。謎が謎を呼ぶミステリー小説です。
上の文の、新城喬子の言葉というのは、不正確です。
新城喬子の夫が、喬子が、行倒れ者の名簿で、父親の消息を探す姿を見て、思った言葉です。
この言葉、恐ろしい。しかし、読んでる私は、「死んでてくれ」と思う気持ちもよく分かりました。
この小説は、私にそう思わせるほど、多重債務に追い立てられる悲劇を迫真力をもって、描いています。
多重債務に陥る気持ち・・・・。
私もそれが少し分かります。
前のブログで、私が一週間で300万をうしなった話をしましたが、その過程で、冷静さを見失い、損失(泥沼)から逃れようとして、さらに足をとられていく状況を経験しました。
「会いたい」
森絵都「つきのふね」の中の言葉です。
何の変哲もない言葉ですが、小説が作る世界では、この言葉が強烈に響きます。
いさかいを、逡巡を、贖罪の気持ちを、一瞬にして解消する言葉でした。
中学生の世界を描いているのですが、彼らの心の動きが実に見事に描かれていると思いました。
題名が「つきのふね」という、ひらがなで書いてあるのも印象深いです。
小説の最後が、生死に悩む青年の、自身が小学二年の時に書いた友人への手紙で終わっっています。勿論ひらがなで書かれています。
いい小説には、心に響く言葉がありますね。あるいは描写が。
それが最後の一行だと、うーん、です。