近頃の読書

近頃読んだ本の感想。もうすぐ73ともなれば読める本はあと少しだろう。で、読んだ本を備忘の為書いておきたい、という気持ちです。

沢木耕太郎深夜特急第一便」・・・「凍」「天路の旅人」「旅する力」と読んできて

彼の旅の原点である「深夜特急第一便」を読みました。1970年代の香港・マカオでの体験を書いていて、興味深い。なんでも体験してやろうという感じです。若き日本のエネルギーも感じました。返還前の香港やマカオの様子も興味深い。

島田雅彦「美しい魂」「エトロフの恋」・・・パラレルワールドの雅子現皇后と幼なじみの恋の顛末を描いていました。「美しい魂」は、二人の恋のすれ違い、雅子の皇室入りと絡んで、ドキドキもの。傑作かもしれません。「エトロフの恋」は、雅子を失った失恋男を描いていて低調と思いました。のちの島田「スノードロップ」は、その続きと見えます。

中村文則「私の消滅」「去年の冬、きみと別れ」「土の中の子供」・・・毎日新聞に寄稿した文章で、おや、若い人で面白い人がいるな、という事で読み始めました。ところが、この3冊、興味は惹かれるのですが、さっぱりわからない。これは、誰が言っているのか、誰のことを言っているのか分からない。何を言いたいのかも分からない。じいじには理解不能であった。われ年老いたり、と思った小説でした。

そこで時代小説に逃げ込みました。

青山文平「つまをめとらば」2012年から2015年に書かれた中短編集。さすがにすんなり頭に入る。「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の6編。いずれも面白かった。どれも一気に読みました。印象に残った3編。

「つゆかせぎ」・・長雨に困り売春をする後家の話。彼女の言葉「種をいただく」「ややこを授かりたい」「娘二人のてておやは違う。でも私の子。子は女のもの」うーん。

「乳付」・・・乳の出ない女が、わが子に乳を含ませる女への嫉妬。その乳母?の言葉「女の乳房はけっして一人の女のものでなく、一族の乳房なのでございます」

「逢対」(以下完全ネタバレ)・・・竹内泰郎は、無役の貧乏旗本。趣味は算学。算学のしがない師匠もしている。

彼は、近所の煮物屋の里(さと)を愛する。里も好意を持つ。しかーし。里の母親四万(しま)は遊女だった。里を良い妾にしようと養育。里は、5年務めた妾の手切れ金で煮物屋を開店。

そんな事情だから、里はいう「あなたの嫁さんにしてもらおうと思ってない。母同様、女の子を生んで、あなたとさっさと別れて、わが子を妾にして・・・」

 

竹内泰郎は、里を嫁にもらう決心がつかない。

 

悶々としている所へ幼なじみの北島義人が出現。義人も同じ貧乏旗本。義人は、12年も

逢対(あいたい)を続けている。しかも毎日である。

 

逢対とは、仕官を願って、老中等の有力者の登城前にそのお屋敷に行って、仕官を望むもの。就職活動。しかし、殆ど無駄なこと。義人は言う「これが俺の武家奉公だ。何かをせねばならぬ」なるほど、逢対そのものが奉公なんだ。

 

泰郎は、興味を持って、義人について逢対に行く。対象は、若年寄長坂秀俊。長坂はこの2年、一人ずつ登用している稀有の人物。この登用を聞いて義人も、泰郎も、もしかしたらという希望を持つ。

 

逢対の二日後、長坂家から泰郎に面会の知らせが来る。すわ?就職?

 

行くと案の定「召使いたい」とのこと。

 

ただし泰郎の持つ刀を所望とのこと。交換しても良いとのこと。大した刀でないのに。長坂は、刀オタク。しかも名刀でない刀オタク。しかし泰郎はこれを断る、なぜならこの刀、義人のものだから。・・・義人に職を譲る。

 

泰郎は、里に言う「俺は算学一本で夫婦になりたい」。泰郎は思うのだ。里にちゃんと恋させて見せる。妾よりも本妻がいいとしっかりわからせる、と。

 

泰郎の正直な行動は、いいなあ。自分の欲に縛られない。こうありたいものだ。最後の決心もいい。

 

彼は己が信じる算学について言う。「三角形の内角の和が180度という事は、人々に、認識されない。存在しない。しかしそれは正しい。この世には、まったく人のめには見えてないけど、疑いようもない真の正しさがある。」里への愛こそが、真の正しさと彼は考えるのかも。

 

自分の信じるある何かに従って生きていくのは美しい。しかもそれが正しい事であればなおさら。