甘い甘い幸せな恋愛=「若き日の思い出」

 武者小路実篤の「若き日の思い出」を約40年ぶりに読みました。20代前半何かで落ち込んでいた時、元気づけられた一書です。若かったあの頃、話がうますぎる、そんなことあるはずないと思いながら、それでも癒された小説でした。
 
 40年後の今日読んでみての感想は、
 
(1)初めから相思相愛、どちらも自己抑制的かつ向上心旺盛の素晴らしいカップルが、善意の人々に囲まれて、障害もなく恋愛を成就する。ーメルヘンとして、元気 付けにいいと思う。読んでいて、羨ましくなった。今の若者たちもこんな感じで幸せになれればいいなあと思った。
 
(2)恵まれた階層の話で、一般の人々とは、無縁の話という40年前の感想は変わらなかった。この恋愛小説の時代は、大正ごろか。華族や金持ちや名家の話で、ほとんどの日本人には関係ない世界だ。僕がこれを読んだ高度成長時代でも、一般の人には関係ない世界のはなしだ。では、2012年の今ではどうか。やはり同じですねえ。大学に通う人はきわめて多くなったけれど。友人の別荘に遊びに行って、友人の妹と相思相愛になって、その兄と父親に気に入られて・・・やはり、メルヘンだ。
    
 ただし、いつの時代のどんな階層にも、初めから相思相愛、自己抑制的かつ向上心旺盛の素晴らしいカップルが、周囲の理解や応援で恋を成就・幸せになるなんてことはあると思う。あったはずだし、あってほしい。どんなに貧乏でも。
 
 (3)今回思ったのは、この小説は、当時の日本人を元気づけるために、武者小路が書いたことが随所にあると思ったことだ。単なる恋愛小説ではなくて。というのは、作者が、太平洋戦争で疎開しながら書き、敗戦直後に完成させたという執筆年代を考えるとよくわかる。
 敗戦後の日本人に対して「夢を持て。希望を持て。誇りを取り戻せ。自堕落になるな。向上心を持てと武者小路が言っている。それを強く感じた。
 
 (4)正子は、素晴らしい心ときめく女性だ。こんな女性を造形した作者は60才を超えている。作家の能力に改めて感心する。
 
(5)正子のその後、その後の結婚生活、それはこんな美しいものではない可能性は高い。