「あの物語はもともと嘘っぱち」−太鼓たたいて笛吹いてー

井上ひさしの「太鼓たたいて笛ふいて」を読みました。林芙美子を主人公とした演劇です。

「あの物語」とは、明治以降の「日本人みんなが気にいって」いた「戦さは儲かる」という物語です。芙美子もこの物語にあわせ、日中戦争に従軍記者として、兵士や国民を鼓舞する文章を発表します。
しかし、太平洋戦争の敗色濃厚となる頃、戦争の実態を知った芙美子は、「日本はきれいに負けるしかない」と発言し非国民扱いされます。そして「戦さは儲かる」という物語のウソを告発します。

戦後の芙美子は、「私の笛と太鼓で戦争未亡人がでた。復員兵が出た、戦災孤児がでた、だから私は書かなきゃいけないの、この腕の折れるまで・・・その人たちにせめてものお詫びをするために・・」と言って作品を生み出し続けます。

加齢からか近頃涙腺のゆるんだ私は、復員した時男の運命と、彼の作ったウソの物語にぼろぼろ涙が止まりませんでした。

井上は登場人物に、物語を「世の中を底の方で動かしているもの」「世の中をある方向にうごかそうとするもの」と言わせます。
それは国家の物語です。大きな物語です。美しい言葉でかざられたホントの様に見えるウソの物語。

時男のうその物語は、誰もがうそとわかる物語です。心を温めるうそです。

国家の物語は、ウソかどうか簡単には分かりません。芙美子は言います。「もう物語はたくさん」と言います。われわれは国家のウソの物語に騙されてはいけません。

今日2月11日は、「建国記念の日」。戦後政府によってつくられた国家のウソの物語です。歴史学者・野党・宗教各派等多くの反対を押しのけて作られたウソ。

「紀元前660年2月11日神武天皇が即位したのが日本の建国の初め」という物語に由来する祝日。縄文時代天皇即位?中学生でもわかる嘘だ。こんな分かりやすいウソならいいが。

「我が国の今日の繁栄の礎を営々と築いた古からの先人の努力に思いをはせ、さらなる国の発展を誓う」(本日の安倍首相の国民一人一人へのメッセージ、朝日新聞より引用)

私は、この言葉にウソの物語を紡ごうとする意思を感じます。今日の繁栄は、戦前の否定が基礎にあると思うからです。この言葉に、戦前を肯定しようと言う意思を感じます。少なくとも戦前の国家の過ちを糊塗しようとする意思を感じます。また、戦争責任(私は大小軽重の違いはあるが戦前の大人全てに戦争責任はあると思っています。ー井上が描いた林芙美子もそう思ました。)を無視しようとする意思を感じます。

美しい「国家の物語」に気をつけよう。