「春風馬堤曲」のような小説

「花はさくら木」(辻原登著)を読みました。

後藤さんの命が危ない状況で、こんなのんびりした小説を読んでいていいのかとも思いますが、私には何もできることがないので、読みました。

まあ、面白かったと言えます。

ロマンチックな小説でした。江戸時代中期の京・大阪を舞台にした権力闘争、恋愛・芸術の話と思いました。

主人公は、若き日の田沼意次かなあ。彼に対立する側は、架空の北風という資本や鴻池という「上方」資本。田沼は、上方資本の力を削ぎ江戸に富を移すのが幕府再興の道と考える。北風は、豊臣家再興まで視野に入れて「上方」資本の独立を保とうとする。
これに、朝廷と幕府の関係や女帝=後桜町天皇擁立問題や若者たちの恋愛が絡む。
そして、池大雅与謝蕪村・太祇・伊藤若冲文人・芸術家も登場する。

田沼意次がかっこよかった。頭もいい度胸もある好男子として描かれていました。
智子内親王(後の後桜町天皇)や北風のお嬢さん=菊姫がなかなか魅力的でした。

「春情まなびえたり浪速風流(なにわぶり)」と言う蕪村「春風馬堤曲」の中の一句が出てきて、うれしくなりました。「春風馬堤曲」は、私の大好きなものです。作者は、この「春風馬堤曲」の雰囲気を、小説にあらわしたのかなあ、なんて勝手に思いました。権力闘争・剣戟もあるのに、憎悪がほとんどなく、死んだのが数名と言う小説です。

春風駘蕩と言う感じの小説でした。日本も世界も、こんなであったらいいのにな。