この番組は、2022年12月の再放送で、私はこれを初めて見て興味を惹かれた。
番組は、「松本清張と帝銀事件」という題で、ドラマ(90分)、ドギュメンタリー(60分)の2部構成である。
ドラマは、松本清張と文芸春秋社の田川編集長が、帝銀事件の真相に迫るが、真相を書ききれなかったという内容である。
清張は、帝銀事件(1948年1月に起きた帝銀・椎名町支店で12名が毒殺された事件)の裁判結果(画家平沢貞道が犯人、1955年死刑確定)にいろいろ疑問があり、田川編集長・文芸春秋の協力を得て調査を進める。 その結果清張は、平沢は無実で、これは冤罪ではないかと疑う。 調査対象は、同事件弁護士、雑誌記者(読売新聞記者)、刑事たちさらに雑誌に掲載された兵士たちの証言である。
この調査を始めたのは1957年である。
彼の疑問点は、
〇犯人が被害者たち16名に毒を飲ませた手口が、平沢のような素人ではできない
〇犯行を自供した平沢が、公判では無実を訴え、死刑確定後も無実を主張している
〇動機が金というのは納得できない。金ならもっと簡単な手口があるはずだ
〇平沢を真犯人と違うという生存者がいる
〇毒物は青酸カリという事だが、被害者た ちの死亡状況は、青酸カリの死と違う
〇捜査は、6月頃は軍関係者が中心だったのに、8月唐突に画家の平沢が逮捕された
清張は、この調査で次の結論に至った。
毒物は、青酸カリではなく、青酸ニトリールで、それは軍関係者しか手に入れられず
真犯人は、731部隊関係者。そして捜査の大転換には、GHQの介入があり、GHQは、捜査のみならずマスコミにも介入した。その理由は、GHQは、731部隊の人体実験データの独占の為、731部隊の幹部と裏取引したと推測した。(幹部の戦争犯罪免責の代わりに実験データ独占)裏取引がばれると国内でも国際的にもまずいので、捜査とマスコミに圧力をかけた。
清張は、調べた結果をノンフィクションで書くと主張したが、文芸春秋側は、小説でと主張。清張と文芸春秋は、雑誌記者と警察関係者に、裏付けを迫ったが、彼らはいずれも、固く口を閉ざす。
清張は結局折れて、1959年「小説・帝銀事件」を発表した。彼は言う。「日本はほんとに独立国家なのか」と。
その後清張は、「日本の黒い霧」で、帝銀事件・下山事件などのノンフィクションを書く。
ドラマでは、「ノンフィクションで」の主張と「小説で」の主張の対立が描かれるが、
どちらが真実に迫れるのかは、簡単には言えないと思った。どちらが人を動かすかも簡単ではないと思った。
ドラマで印象に残った言葉
清張「文章は売れなければ意味がない、しかしこんな事実(731部隊・GHQの介入)
を娯楽にしてよいのか」
清張「警視庁の見解をうのみにするマスコミ。マスコミが流す情報で世論が醸成され
る、それでいいのか」
池島文春編集局長「編集長の好きにしていいが、作家は守らないといけない」
証言拒否した新聞記者「記事は空気を醸成する。情報を伝えることで社会の安寧を守るべき。日本は国際社会で生きている。日本の役目がある」→清張「それは間違っている。情報の選択権は市民にある」
ドギュメンタリーは、松本清張の疑問を検証するという内容である。
⓵テキストマイニング方式で平沢の自白の性質を分析(立命館大○○教授)
検事と平沢のやり取りで出てくる言葉の出現頻度を調べると、検事の誘導で自白している可能性が浮上。
その一例・・初め使ったの毒物を塩酸と言っていたが、検事が青酸カリと言ってから、平沢は、青酸カリというようになった。
②自白11日後、警察署で行われた犯行の再現での矛盾(フィルム撮影がある)
〇毒物の飲み方 犯人は、舌で下歯を口内で隠すように指示したが、平沢は、舌を口外にベロンと出して飲むように指示
〇犯人は毒物を飲んだ1分後、次の飲み物を飲めと指示したが、平沢は二分後と指示。
平沢は犯行についての「無知をさらしている」のでびっくりと研究者。
③捜査係長甲斐文助の捜査記録の分析(全2289頁、明治大山田朗教授と共同調査)
あ、初め捜査は、似顔絵・筆跡・目撃情報中心、6月頃から旧軍関係者への聞き取りが
急増。
い、犯行手口及び毒物(青酸ニトリール)から旧軍関係者と推測
う、それを扱っていた南方軍防疫給水部、さらに登戸(のぼりと)研究所から731部隊
へたどり着く。
え、731部隊の人体実験を知る。捜査員「人殺しを研究してた」石井部隊長にも接触
お、石井四郎は言う。「俺の部下にいるような気がする」「俺の力で10年~15年誰も口
外しない。君らが行ってもほんとのことは言わぬだろう」
か、石井四郎自身、青酸カリによる捕虜虐殺の事実を認める(昭和11年~12年回)
き、憲兵Aが怪しいという話があり、捜査会議で20回も登場。しかし結局所在不明
④米国人ジャーナリストが米国公文書館で発見した書類
マスコミが731部隊について調査・発表するのを検閲官を通じて差し止めよという内容(GHQ公安課文書)
⓹マロンド・シュロック(当時のGHQ諜報課員)の証言
帝銀事件の8か月前、731部隊の全容・資料を把握していた。そのデーターを独占するため、幹部の免責を約束した裏取引があった。これはトップシークレットだった。
wikiを見ると、平沢犯人説・冤罪説の対立、毒物は何か、GHQは、捜査に協力したのか、介入か等、いろんな説が紹介されている。甲論乙駁という雰囲気である。
私は、①・②・③で、平沢は犯人ではなく、帝銀事件は冤罪事件と思う
また、③・④・⓹で、GHQは、731部隊の人体実験データー独占の為、同部隊幹部の免責という裏取引をした、そして帝銀事件でこれに接触されるとまずいので、捜査に介入かつマスコミ統制をしたと判断する。
犯人の動機については、ドラマの最後に清張が言った「冷静に実験をやるみたいに大量殺人ができることを示し、それを実施した731部隊を忘れていいのか、その幹部の免責なんぞしていいのかという事を世に訴えるため」という事に、なるほどとおもった。
思い出すことがある。森村誠一が「悪魔の飽食」で731部隊の人体実験を詳細に述べた時、一部から猛烈な非難を受けたこと、人体実験はなかったという言説が流れたことである。
しかし、③のおで、石井四郎部隊長が自ら認めたように、人体実験や虐殺はあったのである。
害毒の極めて多い、狭量な、間違った、国を誤らせる愛国心。
事件当時(1948年)日本は占領下にあり、GHQが捜査やマスコミに介入するのは、当然と思う。しかし、清張が帝銀事件を調べたのは、1957年から1959年である。サンフランシスコ講和条約成立は1952年である。独立しているはずなのに、なぜ刑事や新聞記者は口をつぐむのか。まるで石井四郎731部隊長の呪縛(それは実質はGHQの呪縛)が生きてるみたいだ。
小説「帝銀事件」が「書かれたのは、1959年。その翌年が1960年。それは安保条約改定の年だ。その時の総理大臣は、岸信介。
米国によって、戦争犯罪を免責してもらい、CIAのエージェト(WIKIによる)となっていた総理大臣である。GHQの呪縛が日本にかけられていたように感じられる。
「独立」から73年! 後の2024年の昨日(3月28日)の朝日新聞記事によると、自衛隊と米軍の指揮統制の連携を強化するという。 情報収集能力・分析能力からみれば、自衛隊を指揮するのは米軍ということになろう。
戦後日本は、戦争をしない国というのが国是である。 米国は、戦争は当然とする国である。 こんな真逆の国家どうしが、軍隊の指揮統制の連携をはかっていいわけあるまい。
集団的自衛権行使を可能にした安保法制下では、日本は、自国が侵略されてなくとも、米国等他国の戦争に、米軍の指揮下で参戦する。
戦争をしない国家である日本がどうしてこうなったか。
繰り返すが、1960年安保闘争(日米安保条約反対)を抑え、現安保条約を締結したのは、米国に戦争責任を免責してもらい、米国CIAのエージェント(代理人・スパイ)になった首相岸信介であった。 1970年安保条約の自動延長を行ったのは、岸信介の実弟・首相佐藤栄作であった。
2015年日本が侵略されてなくとも、米国と一緒に戦うことを可能とした安保条約逸脱・憲法違反の安保法制を作ったのは、岸信介の孫・首相安倍晋三であった。
岸信介氏は、昭和の妖怪と言われたそうだが、妖怪一族の呪縛が戦後の日本にかけられてきたようだ。
日本の戦後史は、米国の呪縛のもとに展開してきた。それが正しかったのか、得か損かは別にして。
戦後の日米関係の全てを米国の呪縛、あるいは原発の安全神話同様、日米安保神話じゃないかと疑ることが必要と思った。