内田康夫さん、それは違うと思う

私は、内田さんの愛読者の一人です。「死者の木霊」以来、多くの小説で楽しませてもらいました。浅見が一番好きな女性は誰かなんて、一人で楽しませてもらました。

このたび「棄霊島」を読みました。面白く読ませてもらいました。あなたが社会派推理小説と言うとおり、この小説は、隠れキリシタン弾圧、国家神道朝鮮人の強制連行、日本人拉致問題、松代大本営教育基本法改正問題等多くの社会問題を背景に小説を構成されています。

これらの社会問題についてのあなたの意見は、常識的であり私も賛成なのです。唯一「靖国問題」については賛成出来かねます。あなたの「靖国」についての考えは、日本人の平均的考えかと思いますが、私は賛成できません。

あなたは、靖国問題についてこの小説の中で、地の文や浅見光彦、主要犯罪者を通して、次のようにおっしゃっています。

(1)靖国神社A級戦犯が祀られているのは、日本人の感覚から言うと違和感がない。古来日本人は、どのような人も「死んだら神様」だからだ。もう戦後60年もたっているのだから許してくれてもいいんじゃないかと多くの日本人は思っている。

(2)日本人は宗教に無節操で、靖国神社の参拝するというのも特段の意味はない。靖国神社が過去の戦争の美化になるなんて日本人の99%が考えていない。それをマスコミや評論家は世界に教えるべき

(3)靖国参拝を総理になる前は良くて、総理になったらだめで、辞めたら良くなるというのは首尾一貫していない人物となる。

(4)A級戦犯はだめでBC級戦犯だったらいいというのは変だ。

(5)靖国神社への初もうでは、伊勢神宮や川崎大師や成田山などへの初もうでとどこが違うのか。日本人はそんなこと何も考えて参拝してはいない。

(6)かつての国家神道の大元の伊勢神宮朝鮮出兵した豊臣秀吉を祀った豊国神社もあげつらわれそうだ。

(7)殆どの人は、靖国神社参拝で、戦争を美化しようとか殺戮をほめたたえようとか思っちゃいない。

(8)明らかな不正を除けば、正義ほど不確かなものはない。イラクに侵攻したアメリカは正義と思えない。朝鮮戦争を起こした金日成
は、建国の神なのか、A級の侵略者なのか、誰が一体特定できるのか、それを考えると靖国神社にたった10余名のA級戦犯を合祀したことなどとるに足らないものだ。

(9)靖国参拝は、なくなった人への鎮魂と迷惑をかけた諸外国に対して懺悔の念を捧げる意思表示で、首相の参拝はその国民の総意を代表するセレモニーだ。

私は次のように思います。
(1)中国・韓国政府は、個人が靖国参拝することになんら異議を唱えていない。A級戦犯合祀以前は、首相の参拝を問題視していない。天皇の参拝も問題視しなかった。A級戦犯を祀ってそれを総理が参拝することを問題としている。日本人の宗教の在り方について文句を言っているわけではない。問題視しているのは、首相の(政治家の)A級戦犯を合祀している靖国神社参拝なのである。

(2)何故問題視するか。それは、A級戦犯侵略戦争を起こした責任者だからである。首相がA級戦犯へお参りするというのは、侵略戦争肯定と中国・韓国は思うわけである。自分たちにあんな被害を与えた戦争を反省してないのかと言うことである。

(3)首相の靖国参拝が正しいというためには、(A)侵略戦争はなかった。(B)A級戦犯に責任はない。(C)首相は日本の代表ではない。(D)A級戦犯へのお参りは、彼らを肯定するものではないと言うことを他国に証明しなければならない。
(A)について、日中戦争で中国人が死んだことは間違いない。それは日本が軍事力を使って支配しようとしたからだ。それを侵略と言う。
(B)A級戦犯に責任がないならだれに責任があるのか。東京裁判の不公平さはいろんな面である。しかし誰かに責任はあるのも事実。
私は、天皇から当時の大人の日本国民すべてに大小軽重の差はあれ、責任があると思っている。A級戦犯に代表してもらったと思っている。いずれにせよ責任はある。
(C)首相がだれにも知られず、靖国に参拝するならそれは個人である。マスコミに知られる状態での参拝は公人で日本国を代表することとなる
(D)靖国は、A級戦犯以外の戦没兵士を祀っている。参拝は、一般の戦没兵士の命を国家に捧げていることを否定するのか。

以上、首相の靖国参拝を肯定することには無理がある。A級戦犯分祀するなら外国からの批判はなくなる。
私は、そうなっても首相を含め政治家の靖国参拝を否定する。憲法原則政教分離違反であるし、靖国神社は戦争肯定し、国民を戦争へ引き込む一つの装置と考えるからだ。そして戦争を基本的人権侵害と思うからである。人間が集団をつくるのは、人権を守るためと思うからである。

尚内田氏の(1)(2)(5)(7)は、日本人の宗教行動・気持ちを説明したもので、他国に通用しない。俺たちはこうなんだ、わかってくれよという甘ったれでしかない。イスラム過激派が、俺たちはこれこれで、わかってくれよと言ったって通用しないだろう。

(4)について、A級戦犯とBC級戦犯は大いに違う。BC級は戦場で人を違法に殺したのであり、A級は戦場に出ておらず直接人も殺しておらず、BC級に対して犯罪を犯させた間接的罪を持つ。

(6)中韓とも、そんなことはそもそも言っていない。政治的戦争犯罪A級戦犯)は、第二次大戦後指弾されることとなった。

(8)について、イラク「侵攻」のアメリカ、金日成北朝鮮戦争犯罪を犯したと考える。戦争犯罪と「特定」する基準は、不戦条約・国連憲章であり、この条約違反である。
「特定」する主体は、不明確である。私は、戦争反対=基本的人権擁護を目指す過去現在未来の人々の意思と考える。A級戦犯は、他国の1000万から2000万を殺害した日本国代表と言う存在で極めて大きい存在だ。

(9)について、A級戦犯を鎮魂するとは、彼らの行為を肯定するか、「悪いなあ、俺たちの罪」を背負ってもらってと言う懺悔であり、迷惑をかけた諸国への懺悔では決してない。

尚本日、安倍首相が、ある団体の戦犯日本人追悼法要へメッセージを送ったというニュースが流れた。この法要対象は、A級戦犯もBC級戦犯も含まれるとのことである。また安倍氏は、自民党総裁と言う肩書で送ったとのことである。
そのメッセージは、「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎となられた昭和殉難者の御魂に謹んで哀悼の誠をささげる」と言うことである。

昭和殉難者とは、昭和の時代、国家の利益のため身を犠牲にした人と言う意味で、称賛の対象や尊い犠牲者と言う感じを含む。

BC級戦犯は、捕虜虐待など国際法違反の犯罪者=加害者であり(もちろん冤罪の人もいるが)、安部氏の行為は犯罪を肯定することである。A級戦犯は、国際的には侵略戦争を起こした責任者と認められた人であり、安部氏の行為は、侵略を肯定することとなる。一方、東京裁判はいい加減である。戦争責任は、天皇を始め当時の大人の国民全てにある。大小軽重はあるけれど。それを誤魔化して、A級戦犯に罪を背負ってもらったのである。その意味では、安倍氏の行為は、日本国民の戦争責任をあいまいにしようとする行為でもある。

内田氏の(3)を無視してしまいました。
(3)について、ある一人の人間が、立場の違いで行動が違うのは当然だろうと思う。公人としての義務がある。憲法・公務員法の命令である。浅見陽一郎は、警察幹部としての行動と私人としての行動を峻別しているしょう。尤も浅見探偵に対しては、ちと法令違反をしてますがねえ、それは秘密。(秘密保護法反対!!)ねえ、内田さん。
(8・28追加)