作家の想像力

日頃から小説家の想像力・構成力・表現力をすごいと思っています。

近頃、桐野夏生東京島」と荻原浩「四度目の氷河期」を読んで、作家の想像力について思ったことを書きます。と言ってもいつもの感想文です。

東京島」は、無人島で、30人ぐらいの男と40歳台の一人の女が生活するという思考実験的小説である。この女の、集団内の位置の変化がまあ面白い。女の気持ちや行動は、そうなんだろうなと納得させられる。やはり、桐野氏は女性である。女性心理がなるほどと思わせられる。男たちもそれぞれが、それぞれ変化する。それもまた少し面白い。
中国人達も登場する。フィリッピン女性芸能グループも登場するが、概念的な感じがする。
確かに面白い思考実験であるとは、思う。作家の想像力はすごいと思う。しかし、無人島で何年も数多くの人間が存在するという設定に無理があって、それが面白くない。無人島での生活と言う小説では、「15少年漂流記」とか「蝿の王」とか読んだことがあるが、「蝿の王」は、生々しかった。桐野さんのこれは、それに比べて落ちると思った。思考実験は、ある程度現実にありうることで書かないと失敗なんじゃないかな。私にとっては、高橋和己「邪宗門」が思考実験として一番印象に残る。

「四度目の氷河期」は、男の子のアイデンテイテイ確立の話だ。この子には、父親がいない。そうして早熟だ。実は、父親はロシア人で、この子には次第に日本人と違う形質があらわれてくる。この苦しみに対する男の子の苦闘がよく描かれている。同じ想像力と言っても、心理を想像して書いたものだ。この子の気持ちが実に良く描かれている。
素晴らしい想像力である。
特に、男の子とやがて恋人になる女の子の出会いが良いなあ。全編にユーモアもあって楽しかった。荻原浩はいいなあ。未だいまいちだなあと言う小説に出会わない。