「日米同盟の正体」を読んだ感想

孫崎 享「日米同盟の正体」(2009年、講談社現代新書)を読みました。
現在の安全保障問題(集団的自衛権も含む)を理解するのにとてもいい本だと思いました。印象に残ったところを書き出し、感想を書きます。

・・・・印象に残ったところ・・・
第1章 戦略思考に弱い日本

○米国の外交・防衛関係者は、日本が戦略的思考が出来ないと考えている。たとえば次のようなこと。米国は、日本のPKO参加を将来の軍事的貢献への準備として考えていた。1980年代から続くシーレーン構想は、日本の石油確保目的ではなかった。米国の対ソ連戦略の一環であった。自衛隊を、オホーツク海でのソ連原潜の行動抑止に使うため、P3Cを導入させた。これらの戦略的意味を、日本の外交や防衛関係者は、だれも理解できなかった。

兵法書「孫氏」にも、戦闘・同盟以上に謀が上策と言っているように、筆者(孫崎)も謀略=戦略を重要と考えている。

第2章 21世紀の真珠湾攻撃

○米政府にとって、9.11テロと南北戦争真珠湾攻撃には類似点がある。いずれも、積極的でない国民を戦争に熱狂させる政府の謀略が臭うという点である。

○米国は、北爆のきっかけとなったトンキン湾事件など謀略を行う国である。

○米国は、北方領土問題を対ソ連・ロシア戦略に使った。故に米国は、北方領土問題の解決を邪魔することもあった。日本とロシアが仲良くならないようにと言う作戦である。

第3章 米国の新戦略と変わる日米関係

○冷戦終結後、米国は「平和の配当」より、「唯一の軍事大国維持」と言う戦略をとった。それは、米国軍産複合体が米国の外交防衛を牛耳っているからである。彼らは、防衛予算を確保するため、ソ連に代わり、イラン・イラク北朝鮮を「悪の枢軸」と宣伝した。

○冷戦終結後、米国は日本を最大の脅威と考え、自国の国際戦略に組み込むことと、日本国内の構造改革を強く要求した。そのため日本の官僚たたきを誘導した。官僚が米国の戦略の邪魔になるからである。

4章 日本外交の変質

○現代の外務官僚は、集団的自衛権に積極的であるが、それは外務省の伝統と違う。吉田茂下田武三らは、米国の戦争に巻き込まれないことに腐心した。後藤田正晴然りである。変化したのは1990年代初頭である。

○「日本は米国に守ってもらい、米国を守らぬのは不公平」と言う論は間違いである。米国は、日本に格安の基地を持ち、日本を味方につけ、日本に攻撃兵器を持たせない、その代わりに日本を守るという約束をした。米国は十分ペイしている。

○2005年締結した日米同盟は、活動範囲を極東から世界へ広げ、国連軽視の「先制攻撃も是」とする米国主導の軍事体制の一環である。
戦後日本外交は、国際法を重視した欧州的なものであった。それが日米同盟により変質した。

○日本外交が何故米国追従になったか。日本に謀略がなかったからである。

5章 イラク戦争は何故継続されたか

○米国のイラク戦争の理由=「大量破壊兵器保持とアルカイダとの密接な関連」は、操作された情報で嘘であり、それを開戦前から疑う十分な情報があった。イラク戦争には、石油利権のための戦争と言う面も弱い。治安維持の機能はあまりない。イラク戦争の継続は、冷戦後の強力な米軍保持の目的とイスラエルロビーの影響による。

6章 米国の新たな戦い
○ビンラデインは、サウジからの米軍撤退を目的に9・11テロを行った。ブッシュ大統領は、これを、テロとの戦いへと拡大して
アルカイダのみならずハマスヒズボラ等も戦いの対象に加えた。それは、イスラエルの安全保障政策に影響されたからである。イスラム教が本来過激なのではない。米国・EUが本気でイスラエルパレスチナの和平交渉に当たれば、中東和平も夢ではない。

7章 21世紀の核戦略

○「なすべき義務があり、それには多くの犠牲が求められる場合、米国は核兵器を使用する」という論理は、今も生きている。

○米国の核戦略は様々変化したが、相互確証破壊戦略(核を使えばお互いひどい被害にあう故に核を使わない)が行きついた道であった。しかし、冷戦後米国はこれを放棄した。イラン、イラク北朝鮮へ核を使って勝利するという考えを持つようになった。

キッシンジャーは、「核保有国は、核を使わないで無条件降伏することはあり得ない。一方生存が脅かされると考える時以外は
核を使わない。故に無条件降伏を求めてはならない」と言っている。筆者(孫崎)も同意見。

8章 日本の進むべき道

○日本の核保有は、軍事理論上根拠がある。被害以上の打撃を与えるのが抑止力だからである。しかし、「核戦争が起きること」、「都市化した日本は、核攻撃に脆弱なこと」、「座して待つより打って出ようという国内世論が生ずる」こと、以上から筆者(孫崎)は、核保有に否定的である。

○米国の核の傘は、不完全である。相手が核保有国の場合、米国は、自国都市への核攻撃を嫌い日本を捨てる可能性大。

○敵地攻撃論は、北朝鮮には有効でも、ロシア・中国には該当しない。広さを考えよ。

ミサイル防衛は、不可能である。「爆撃機を撃墜する可能性は3〜30%である。ミサイルの場合もっと低い。巡航ミサイルは、撃墜が困難である」(ペリー元国防長官)

○核攻撃への有効な抑止は、非軍事分野にある。戦争となれば経済関係が途絶える。たとえば中国。日本への輸出に壊滅的な悪影響がでる。国際社会も経済制裁を行う。これに中国企業・雇用者が耐えられない。日本の緊密な経済関係が抑止力となる。これはナイーブな議論ではない。米国国防年次報告(2008)も同様なことを主張している。

グローバル化は、戦争を抑止する。中国指導部にもこの観点で考える層が形成されている。

○日本は、国際関係で尊敬を得る有利な地位にいる。世界の有力国のうちで、影響力を高た方が良いと最も期待される国である。否定したのは有力33カ国中、中国と韓国のみである。

○戦後日本は、軍事を捨て経済に特化する路線をとった。それは自国の安全保障確保の手段となった。日本は国内秩序が世界でトップクラスである。日本は、発展途上国を助け続けた。日本の好イメージは、日本人の海外での活動を大きく後押しした。

○日米同盟は、かつてのように極東に限定するのが望ましい。国連はある程度は機能している。国連との連携を強化すべき。NATOとの連携も強化すべきである。米国に追随しない場合、何らかの報復を受ける可能性もある。それは米国の利益にならぬことを説得すべきである。

国際情勢と戦略を学び、米国に対処する重要性が益々高まっている。

・・・・感想・・・

私は米国も自国の利益優先で動くと思っていたが、この本はそれを見事に示してくれた。歴代大統領側近や外務・国防のキーパーソン達の文章や発言で、良く納得できた。一方、日本政府の自国の利益を顧みない行動を浮き彫りにした。この本は、日本政府の行動を米国がずっと操ってきたとを証明したと思う。

私は、この本で、日本の米国への従属が戦後の日本外交の本質と再認識した。しかし思うに、米国にとっての大失敗がある。日本国憲法前文と9条である。

憲法制定過程で、米国は、日本軍国主義の復活を恐れかつソ連・中国に対抗し日本を自陣営に引き入れるため、象徴天皇と非武装・不戦の憲法案を作って、日本の権力側に押し付けた。当時の日本の権力側も、天皇制護持のため象徴天皇と非武装・不戦の憲法案を受け入れた。日本国民も戦争の惨禍の体験からこの憲法案を歓迎した。
その後の米国は、非武装・不戦の憲法が邪魔でいろいろ圧力をかけたが、日本の権力側も憲法を盾に、軽武装専守防衛を保持してきた。そのバックには、非武装を求める世論も含め、広範な国民の軽武装専守防衛への支持があった。あるいは権力側にも、悲惨な敗戦体験もあったと言えるかもしれない。

この日本の方針を突き崩す努力を延々と続けてきたのが米国の戦略であった。警察予備隊→保安隊→自衛隊日米安保→新安保→日米ガイドライン作成→PKO参加→ガイドライン改定・日本国内法整備(周辺事態法など)→イラク派遣→集団的自衛権論。
こう考えてくると安部政権の積極的平和主義・集団的自衛権特定秘密保護法などの諸政策は、米国の対日戦略の手のひらの中での、さらなる狂った踊りである。色々賢そうなことを言っているが、躍らされている操り人形そのものである。

日本も自国利益優先の戦略で生きていくべきである。自国だけ平和であればいいと居直ることも良いと思う。米国は世界平和のためといいつつ戦争をしてきたが、それは自国の利益=軍産複合体の利益+資本の利益に動かされての行動だと思う。
戦争に巻き込まれない方策=専守防衛や安保廃棄、それを脅しにした普天間基地撤去そんな戦略を考えるべきである。日本にはそのための強力な言い分がある。
なんせ、米国が「押し付けた」憲法はまだ生きている。「あなたの言うとおりの憲法を実施してます。世界の標準である立憲主義でやってます」と言えばいい。米国も反論しにくいだろう。
それなのに、立憲主義に反し(解釈改憲)、ことさら安保状況の悪化を言いたて、(冷戦下よりずっと良好となったと私は判断するー前のブログ)米国の利益優先の戦略=戦争に巻き込まれる可能性のある方向に行こうとする安倍政権は、国益に反する。馬鹿だと思う。そんな政権を支持する国民は、戦後の米国の対日戦略を思い出せばいい。

米国は、自国の利益の範囲内でしか日本を守らない。そんな米国の手のひらで踊っていいわけない。また、米国の権力側は、軍産複合体や資本特にユダヤ資本に左右されるということも考えて、米国と米国民とは、区別して考える必要もある。中国・韓国・北朝鮮・ロシアとの関係でも同様で、その政府とその国民を区別することが、とても大事と思っている。国民と政府の区別、これこそ安全保障のキーなのではないかと思っている。どの国民も本質は、日常の生活最優先である。国家に踊らされてはいけない。

孫崎亨「日米同盟の正体」を読んでそんなことを考えた。