安保法制は、抑止力強化になるか、戦争をもたらすか

10月2日朝日新聞の声欄に、「安保法制 正解を教えてほしい」と言う投書がありました。
こんな内容でした。
(1)新安保法制は、抑止力強化になるのか、戦争をもたらすのか分からない。
(2)安倍首相には、抑止力強化の根拠を丁寧に説明してほしい、脅威の対象とされる北朝鮮・中国との平和的外交をどう進めるか説明してほしい、安保と外交の両面の安心が欲しい。
(3)野党は、憲法違反や戦争法の主張だけでなく、日本が戦争に巻き込まれない具体的な安保政策を国民に示すべきだ
(4)戦争をしない国になるためにどの安保政策が正解か各党に示してもらいたい。それで投票先を決める

もっともな疑問であると思います。日本国民の多くがこんな疑問を持っています。私も正解を知りたいと思っています。安倍首相も野党もこんな声に真面目に答えてもらいたいと思います。

それでも結局は、各人がそれぞれで考え、判断しなければならない問題です。そこで今現在の自分の考えを、まとめてみたいと思います。

(1のA)新安保法で抑止力は強化されるか?
抑止力とは、自国が攻撃されない何らかの力です。それには、軍事力で抑止する力(以下、軍事抑止力)とそれ以外の力(以下軍事外抑止力)があると思います。
軍事抑止力には、ア、自国が相手より強力な軍事力を持つこと、イ、自分の仲間の軍事力を利用すること(軍事同盟=今の日本では、日米安保条約)、ウ、国連による集団安全保障方式があります。今の議論では、ウは、直接関係ありません。

これまでの日本の軍事抑止力をまとめてみますと
1945年〜1951年・・・占領下、米軍の抑止力
1951年〜1954年・・・自衛隊の前身(警察予備隊・保安隊)+米軍の抑止力(安保条約)
1954年〜1999年・・・自衛隊+米軍の抑止力=日本国領域を攻撃されたら日米で戦うぞ!と言う抑止力(専守防衛
1999年(周辺事態法)〜2015年・・・自衛隊+米軍の抑止力=上記の「戦うぞ!」+日本周辺で米軍を後方で支援するぞ!
2015年(新安保法制)・・・自衛隊+米軍の抑止力=日本領域が攻撃されてなくとも米国が攻撃された場合、自衛隊も後方支援するぞ!(全世界で)と言う抑止力

さて、軍事抑止力の大きさを考えてみます。敵は、日本領域を攻撃した場合、専守防衛以前でも以後でも、日米両軍を相手にするので、抑止力の大きさには関係ないように思えます。一方周辺事態法以後は、敵が米国を攻撃した場合は、日本が何らかの形で応援しますので、米国への攻撃抑止力の増大には、ごくいくらかの貢献がありそうにも思えます。つまりは、周辺事態法や新安保法制は、米国への攻撃への抑止力に貢献する可能性がごく少々あり、日本への攻撃の抑止力強化には、ならないと判断します。
この点から言うと、周辺事態法や新安保法は日本の安全のためのものでなく、米国へのサービスと言えます

繰り返しますが、周辺事態法や新安保法が日本の平和と安定に役立つかどうかは、「日本が米国を後方で支援することが、日本への攻撃を抑止する力を大きくするかどうか」です。
元々安保条約で日本への攻撃には、日米両国で戦うと言うことですので、十分大きいわけで、周辺事態法や新安保法で付け加える抑止力は、もしあったとしても極少々増加です。

結論=私は、専守防衛と「周辺事態法や新安保法」では、日本を攻撃を抑止する力は同じか極小の増加と思います。

周辺で米軍を応援しない(周辺事態法)と、あるいは全世界で応援しないと(新安保法制)、日本が攻撃された場合、米軍が戦わないと言うなら、それは、安保条約違反であり、この条約は、虚偽と言うことになります。この場合、日本は安保条約を廃棄し、米軍基地を撤収させるのが当然です。(その時は、軍事抑止力は、自衛隊の戦力だけとなります)

(1のB)戦争をもたらすかどうか
専守防衛の場合は、自国が攻撃された場合戦争となります。
周辺事態法以後は、日本周辺で自衛隊は、米軍を公海上で物資輸送等で応援します。敵は、敵(米国)の味方=日本は敵なので攻撃する可能性があります。当然自衛隊は反撃しますので戦争となる可能性があります。戦争をもたらす可能性は高くなります。
新安保法以後は、全世界で戦う米軍を、今戦闘状態にない場所で後方支援しますので、敵は、敵(米国)の味方=日本を敵と見て、攻撃する可能性は極めて大きいと想像します。米軍の弾薬(米国の核兵器運搬も法律上は可能)を運ぶのですから、自分を撃つ弾丸をなくしてしまおうと敵が思うのは当然です。ですから敵は自衛隊を攻撃します。自衛隊はこれに反撃します。これは戦争です。新安保法は、明らかに専守防衛より戦争をもたらす可能性が高くなります。

結論=故に新安保法は、軍事抑止力を高めず、戦争をもたらす可能性を高めます。そのように私は、判断しています。

尚、日本のために戦う米国兵士を守らなくていいのか、米国青年のみに血を流させていいのかという意見があります。この理屈が成り立つためには、日本が攻撃されていない場合でも、米軍が戦うのは日本のためであると言うことが証明されねばなりません。この証明は難しいです。ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争が日本のための戦争ではないことは、明らかです。これらは、米国の利益のためでした。勿論日本が攻撃された時、自衛隊と一緒に戦う米国兵士は、日本のために戦うと言えると思います。
さらに日本の基地負担の重さも考えなければなりません。基地負担の重さと米兵の命の重さなんて比較していいのか、私にはわかりません。
もし道義的に他国の人命を自国のために使うのがまずいと考えれば、安保条約を廃棄すると言うことも考える必要があります。

さらに、国際貢献についても、また別に考える必要があります。

尚、軍事抑止力強化は、敵国の軍事力増強を生み、双方の疑心暗鬼を生み、緊張を高めます。その意味で平和と安全の逆方向と思います。


(2)脅威の対象とされる北朝鮮や中国との平和的外交をどう進めるか
この人の安倍首相への質問ですが、私も素人なりに、考えてみたいと思います。
(A)中国について
国際法の秩序に閉じ込める作戦
軍事外の抑止力の代表的なものは、国際法のルールにどの国も従うと言うことだと思います。中国をもこのルールに閉じ込めるようにするのが原則です。

国際法では、侵略行為の禁止、平和的解決原則(1928年不戦条約、1945年国連憲章)、非武装地域への攻撃禁止(ハーグ陸戦条約)、侵略行為への経済制裁(これが効果がなく侵略された場合、個別的自衛権集団的自衛権の発動による軍事行動が可能=国連憲章)が決められています。中国も国連常任理事国であり、グローバル経済に生きており、この国際法に真正面から違反する行為はできないと思います。このことを、いつもどこでもどの国も、中国に言うことが大事です。特に戦後日本は、米英中露仏と違ってこの国際法を厳守しており、日本は国際法を声高に言う権利があると思います。(勿論米国に対してもです。)
また、日中には、日中平和友好条約があります。そこには双方とも覇権を求めないと言う決まりがあります。これを中国に働き掛けるべきと思います。
国際法に従うと言うことでは、日本は、世界に率先すべきと思います。そのために、領土紛争は、国際司法裁判所の判断に従うと言う原則を宣言し、ロシア・韓国・中国にもそう働き掛けるのがいいと思います。南沙諸島も同様で、国際司法裁判所に決めてもらおうと、対立する諸国に働きかければいいと思います。
たとえ、裁判の結果、北方領土竹島尖閣を失い、南沙諸島の中国への帰属が決まったとしても、それが日本にとって不利益となっても、法の支配と言う大きな利益(しかも対立する国家に共通の利益)を得られます。
相手が、裁判で決めることに反対の場合、外交上有利になります。裁判で決めようと言っているのにいやだと言う人は、やましいと
判断されます。また裁判で決めようと言っているところをとりにくるのは、侵略と見られるので難しいと思います。これこそ強力な軍事外抑止力です。
中国が尖閣をとりに来た場合、戦うふりしてとらせましょう。そして徹底的に中国の侵略と言う悪事を言いたてましょう。これで幾分戦前の日本の侵略行為の非をカバーできます。先島諸島等、日中の領土紛争になっていない場所を侵略する可能性はないと思いますが、もしそれがあった場合は、自衛隊と米軍に戦ってもらいましょう。別に新安保法制や周辺事態法がなくともいいのです。自衛隊だけで戦うと言う覚悟があるなら、安保条約をやめたほうがベターだと思います。戦争の機会が格段に減ります。

経済制裁
中国が尖閣を武力占領した場合、あるいは、大量の漁民(偽装兵士)が上陸した場合、海上保安庁自衛隊・米軍が対処できますが、
これらを使わない場合を考えてみます。国連憲章では、経済制裁をすることが出来ます。その中でももっとも強力なのが、経済断交
ではないかと思います。日中双方の輸出入全面禁止、資本の輸出入禁止、資産凍結、人の相互行き来禁止など、これは強烈です。
米国も加わるとなれば、これはもう中国の政権が持たないでしょう。日米の政権も持たないかもしれません。日米中各国国民の生活も破壊されます。
普通に考えれば、戦争の前に、対立がひどくなって、お互い経済制裁を強化していってから戦争になるんだろうと考えます。戦争前段階の経済制裁をお互いしあえば、お互いの政権と国民生活が持ちません。つまりは、日米中韓の間の戦争なんて絵空事なんじゃないかな、と想像しています。
まあ、どのような経済制裁をするかは、大いに研究しておく必要があります。そしてこれは、軍事秘密と違い、相手国にもまえもって言っておくことも有効だと思います。
軍事的対応ばかりでなく、経済制裁についても十分に研究しておく必要があります。そして、経済制裁した場合の国民生活への打撃に備えておく必要があります。中国から輸入していてストップされると困るもの、思いつくのは、レアメタルですが、ストップされても
良いよう工夫しておく必要があります。このような経済制裁について研究し、政府も資本も国民もこのことに備えておくことが必要だと思います。

○相互交流の深化
日中の資本・労働・商品・人の相互交流が現在のような場合、上で述べたように戦争は、難しいです。と言うことは、もっとこの交流を深めれば、尚戦争はできません。
○日中の民主化  
国民の意見が政府にストレートに響く状態であれば、生活を考える双方の国民は、戦争に反対する可能性が高いと思います。ただ、
逆の面も考えられます。双方のナショナリズムが燃え上がると政府が抑えようとしても、戦争になる可能性もあります。
しかし、中国経済の鈍化で世界の株が下がって大騒ぎするとか、「中国人の爆買いが日本の経済をどのぐらい潤す」なんて言っているのですから、冷静に考えれば、お互いがお互いを必要としていることは、双方の国民が冷静になれば分かると思うのです。政府や軍需産業や右翼に惑わされないことです。
○日本の価値を高める
爆買いは、日本製品に価値があるからでしょう。同様に日本の様々な面での価値を高めれば、いいわけです。商品の価値のみでなく
観光・文化・安全・医療・人柄・経済制度・・価値が高ければ、それだけ侵略されにくくなると思います。価値あるものを取りに来る
ぞと言う考えもありますが、力で取りに来るそのコストを考えれば、普通に交流の中で手に入れる方が簡単とは、馬鹿でも分かるでしょう。壊れにくい電化製品やシャワー付き便座を手に入れるため、中国軍を動かすより、日本円を持ってきて買う方が得だと中国人も知ってます。

(b)北朝鮮について
軍事抑止力については、周辺事態法・新安保法でも増強するとは考えられません。一方軍事抑止力をどんなに強くしても、北朝鮮
には、ある場合通用しないのではないかと判断します。ある場合とは、北朝鮮政府が崩壊する時です。いたちの最後っ屁として放つ
多数の(核)ミサイルをすべて打ち落とすのは不可能です。死に際のイタチが放つ多数のテロ集団からの防御も不可能です。さらに大きい負担になるのは、北朝鮮からの難民だと思います。
他方、国際法秩序、経済制裁、相互交流の深化、北朝鮮民主化、日本の価値を高めると言うのも、決め手とは想像できません。

しかし意味なく怖がるのは無用です。北のミサイル、テロは、北の金王朝政権が他国からの圧力で崩壊する時生じる危険だからです。
政権維持のため核ミサイルを作ろうとしてる。
と言うことは、北朝鮮国民にはかわいそうですが、現政権を他国の圧力でつぶさないと言うが一番の手だと思います。

日本で言えば、そっちはそっちで勝手に生きろ、日本には関係ないと言うのが、正しい外交戦略の基本と思います。つまりは、敵でも味方でもないと言う姿勢です。「気違いを相手にするな」と言うのが正しい方法です。幸い領土問題はない。歴史問題・賠償問題は、顕在化していない(国交回復すると顕在化し、極めて厄介。その点では現状の方が楽と言える。東西冷戦の時ある意味楽であったように)
中立が正しい方針と思います。この意味では、安保条約は、危険です。米国が北を悪の国と見ていますので、対立に巻き込まれる可能性があります。

拉致問題については、どうすればいいかわかりません。
もし、本気で解決しようとすれば、北の政権維持保障とお金だと思います。
お金だけでもいいかな。やって見る価値はあると思っています。それをやろうとしないのは政府の欺瞞と思っています。解決する気がないのです。お金で解決と言うのも恥ずべきではありません。2000年ごろ、ロシアは困っていて北方領土を返してもいい雰囲気がありました。その時4島にこだわらず、開発保障費でもはずめば、3島はかえって来たのではないかと想像します。
お金=税金=日本国民の汗と涙の苦労の結晶です。外交の手段に使うことに何の恥がありましょうか。「金を出したのにクエートに感謝状をもらえなかった」というのが外交官のトラウマになった(→新安保法制を生みだした一底流)なんて聞きますが、これらの外交官は、税金の出所を考えていないのです。

結論=北朝鮮とは、中立政策(無関係と言う姿勢、場合によっては安保条約廃棄)が日本の安全に有効。周辺事態法や新安保法は危険性を増す。

(3)戦争に巻き込まれない具体的方策
野党が答えるべき問題ですが、私も自分の考えを述べます。
○「周辺事態法」「新安保法制(の集団的自衛権の部分は特に)」を廃棄する。その理由=軍事抑止力は、増大しない(しても極小)、戦争に巻き込まれる可能性は明らかに増える。故に大損、危険。
○1999以前の専守防衛でいく。その他、以前の自民党基本方針=武器輸出禁止、自衛隊海外派遣禁止、GDP1%以内、シビリアンコントロールを厳密にして行く。PKOは、自衛隊と別部隊で行う。
日米安保条約も場合によっては廃棄。この腹づもりで、米国・中国・韓国・ロシア・北朝鮮と外交。
自衛隊は現状戦力で維持。増強しない。軍事外抑止力の効力増大に従い、縮小。国土防衛隊・海外非軍事貢献隊の性質を強める。
(現状の武装同盟から武装中立、さらに非武装中立・集団安全保障方式(憲法の未完のプロジェクト=シールズの言葉)を慎重に追求する)
国際法秩序の宣伝・実施(特に国際司法裁判所の裁定に従うと言う原則の再宣言と露・韓・中への提案)
経済制裁の手段の検討と実施の準備とその世界への表明
○相互交流の深化
○日本も含めた各国の民主化
○日本の価値を高める