「武力によってこの身が守られることはなかった」−「天、共にあり」を読んで

「天、共にあり」は、中村哲氏の著書である。

中村哲氏は、パキスタンペシャワールでの医療活動に尽力し、さらに隣国アフガニスタンでの農業復興に心血を注いだ人である。とてつもなく大きい人物である。以下、この本を読んだ感想を述べる。

(1)私たちは、欧米の見方で物事を見ていて、それは真実と違うのではないかと思ったこと

たとえばアフガン戦争。
「アフガンのタリバン政権は、米国同時多発テロの首謀者ビンラデインをかくまう、過激なイスラム集団であり、彼らに支配されたアフガンの人々は、不幸である。米英のアフガン空爆と地上軍は、タリバンから人々を解放した」これが、欧米や日本の人々の一般的ものの考え方ではなかったか。

しかし、中村氏は、実体験に基づいてこの見方を強く否定する。(1)「ピンポイント爆撃、実際は無差別爆撃、(2)タリバン政権は極貧であり、ライフル、刀剣、対戦車砲以外大した武器もない。アフガン戦争は、米英による一方的殺人ゲームであった。(3)タリバンの圧政からの解放という報道は、まったくの錯覚あるいは捏造。(4)国際治安支援部隊(ISAF)の活動で治安悪化等など(私は、ISAFと言うのは平和に良い貢献をしてると思ってました)
私は、中村氏の報告とものの見方を正しいと思う。1980年代からずっとパキスタンアフガニスタンで、医療や農業復興にかかわってきた人の話である。圧倒的に真実を感じる。
私たちは、ひょっとすると、「イスラム国」に対する考えもまた欧米のみかたで見ていて、真実と違うところもあるかもしれない。シリアでも中村氏のような人いて、報告してくれればホントのことがわかるはずだ。だから、自分の命もかえりみず、危険なところで取材する後藤さん、安田さんのような人は、とても大事な人々だ。武装勢力に捕まったのは、自己責任だ、故に助ける必要なし、なんて言うのは、大きな間違いだ

(2)「イスラム教徒も我らと同じ人間である」と実感できた
学者・評論家は、テロリストとイスラム教徒は別と言う。そしてそうだろうと、私たちも思う。しかし、その思いは、観念的なものであろう。私のような、身近にイスラム教徒を知らない人間は、理屈でしかわからない。
中村氏のこの本で、私は、ほんとにテロリスト≠イスラム教徒が実感できた。と言うのは、中村氏の大事業を支えるのが、イスラムの人々だからである。彼らの活躍を、中村氏は等身大で活写する。

(3)アフガニスタンの過酷な歴史を思う。この国の歴史は、大国の介入の歴史と言っていい。19世紀〜20初めのイギリスとの戦争、1979年に始まるソ連の侵攻、その結果の内戦、やがてアメリカの介入。タリバン政権への英米の圧迫、空爆、地上軍派遣、また内戦、ISAF(国際治安支援部隊)の失敗、撤退、泥沼の混乱。

私は、大国が他国や他民族に口出しすることが、(たとえ人権とか平等とか自由とかを旗印にしても)かえって不幸を招くと言う想いを強くした。その国のこと、その地域のことは、そこの人々に任せる他ないのではあるまいか。これを考えると、安倍自公政権の「積極的平和主義」のうさんくささと危うさを強く感じる

(4)こんな政情不安定・内戦の混乱のアフガニスタンで、30年にもわたって医療・井戸掘り・カレーズ回復、用水路作りをした中村さんたちPMS(平和医療団・日本)は、すごい。
この本の中心は、25キロの長さのかんがい用水路で砂漠を農地に変える話である。単に用水路を造ればよいというわけじゃない。各政治勢力との交渉、取水・洪水対策・堤防造り、遊水地設定等々、目もくらむような大事業である。
この結果が、もっとすごい。砂漠が農地になり、15万人以上の避難民が帰農した。これは、難民を難民でなくしたとことと同じと言ってよいと思う。シリア難民でEUはもめていることを思う時、中村さんの仕事のすごさを再認識する。
思えば、小泉政権時、英米のアフガン戦争支援で、自衛隊をインド洋に派遣して給油に当たった。あの「国際貢献」という言葉の何としらじらしいことかあんなのアフガンへの貢献になってないよ!15万の避難民の帰農化こそ、ほんとの貢献だよここから考えると、安倍政権下の安保法制の一つである「国際平和支援法」(国際平和のために活動する外国軍隊への、自衛隊の後方支援)
は、危険なばかりじゃない、まったくの無駄かつ逆効果と思う。廃止すべきである。

(5)この用水路づくりで参考にしたのが、江戸時代以来の日本のかんがい技術であったと言うのには、感動した。中村さんは、九州の出身。出身地の川を見て回り、江戸時代以来のかんがい技術をアフガニスタンで応用した。彼の文章や図から「信玄堤」を思い出した。日本の素晴らしさがここにある。

(6)中村さんは、政治的発言を控える人のようである。しかし、30年間のアフガニスタンの活動を振り返り、次のように言う。

「いま、きな臭い世界情勢、一見勇ましい論調が横行し、軍事力行使をも容認しかねない風潮を眺めるにつけ、言葉を失う。平和を願う声もかすれがちである。しかし、アフガニスタンの実体験において、確信できることがある武力によってこの身が守られることはなかった。防備は必ずしも武器によらない。

「1992年、ダラエヌール診療所が襲撃された時、「死んでも撃ち返すな」と、報復の応戦を引きとめたことで信頼の絆を得、後々まで私たちと事業を守った。現在力を注ぐ農村部の建設現場は、常に危険地帯に指定されてきた場所である。しかし、路上を除けば、これほど安全な場所はない。私たちPMS(平和医療団・日本)の安全保障は、住民たちとの信頼関係である。こちらが本当の友人だと認識されれば、地元住民が保護を惜しまない。」
「信頼は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切らない誠実さこそが人の心に触れる。それは、武力以上に強固な安全保障を提供してくれ、人々を動かすことが出来る。私たちにとって、平和とは理念でなく現実の力なのである」

中村氏の言葉に対して、安倍政権の「積極的平和主義」や「今や一国平和主義では、国は守れない・・・」等の言葉の空しさよ。
永田町で、空調の中で(PMSは、摂氏50度の中で用水路工事)
米国ばかり向いた能天気な脳みそで考えた安保法制で、中村氏たちの仕事の邪魔をするな。彼らを危険にさらすな。中村氏たちを米英と同じにするな。
中村氏たちの方が役立っているよ。自衛隊の給油した米英の航空機は何したんだい?米英やISAFはこのアフガンの人々の暮らしを立て直したかい。彼らや自衛隊は、15万の避難民を通常の生活に戻したかい?答えは明確だ。

安保法制の一つ、「国際平和支援法」は、まったく有害無益、私はそう判断する。廃止せよ