日本の安全保障方式について(3)・・・自主防衛か中国の属国かどちらかだ

三冊目は、中野剛志「世界を戦争に導くグローバリズム集英社新書、2014年)

である。この本は、前の二冊と違い、日本の安全保障方式について直接に触れているものではない。

 

この本の日本の安全保障方式についての主張は、次のようなものである。

〇東西冷戦終結後の秩序は、米国の覇権がもたらしたもの

〇その後米国という覇権国がなくなる故、世界は、欧米圏、ロシア圏、インド圏、中東圏、東アジア圏とわかれる

〇それぞれの内部での覇権争い、さらに圏境での争いが起きる

〇東アジア圏では、米国が覇権力を失いつつあるなか、中国が台頭するので、日本が、「日米同盟」で中国から守ってもらうというのは無理である。

〇ゆえに日本の安全保障方式は、自主防衛か中国の属国化しかない(正確には著者は「中国が侵略を断念するに十分な自主防衛の能力を確保するか、中国を覇権国とする東アジア秩序の中で従属的地位に甘んずるしかない」と言っている)

 

 

こう言うと、いとも簡単に世界を考えているようであるが、欧米の学者の理論を比較し、かつ起きた出来事を検証して、上のような結論を得ているので、無学な私には、高尚な学問的な本に思えた。

 

その学問の中味は次のようなもののようである。(?)

〇米国には、国際政治に関与する姿勢に、理想主義と現実主義という二つがある

理想主義とは、自由経済、自由・民主主義・人権尊重ということを世界に広めて平和維持するという考え。ウイルソン、Fルーズベルト、ケネデイ、ブッシュジュニアの各大統領がその例。他国に対し不寛容になる。故に戦争をもたらしやすい。理想主義の前提は、覇権国の存在である。

現実主義とは、大国は、己の勢力維持・拡大を優先する故、勢力均衡を目指す方が平和維持に役立つという考え。これは、自由経済、自由・人権・民主主義を認めなくとも、共存を優先する故、他国に寛容である。この勢力均衡方式の平和維持の前提は、主権国家の安定的存在である。

〇冷戦終結後は、米国が覇権国家であった(世界の警察官)。世界戦略は理想主義であった。しかし、中東でつまずき覇権を失った。オバマは、理想主義から現実主義へ変身した。

 

さて、

全てをまとめたり、考えたりは出来ないので、興味ある部分を少々詳しく紹介する

(1)なぜ「日米同盟」で、アメリカに守ってもらうのは無理か?(なお(  )の中は私

   が敷衍したものです。)

ギルピンという学者によると、衰退する覇権国家米国)の戦略は、

A)撤退戦略・・・関与をやめる(→日米同盟から手をひく)

B)同盟戦略・・・これには三つの危険がある(覇権国の負担大、同盟が多いと恩恵薄い、従属する国家が覇権国家を自分の紛争に引き込む)→(日米同盟から手をひく)

C)共存戦略・・・ミュンヘン会談が失敗したようにこれは難しい→(撤退作戦へ?)

いずれも、衰退する覇権国家米国)は、日本を守ってくれないという事となる

 

(2)尖閣問題について著者は、次のように言う

尖閣は、米国にとって無価値である。故に米国議会が米国の戦争継続を認めない可能性がある。また中国が急速に実効支配した場合には、安保条約も適用されない。

尖閣は米国にとっては無価値だが、日中にとっては極めて大きい存在。東アジアの覇権がどちらにあるかを決定するもの。また米国の東アジアでの覇権の消滅を示すもの

著者は、尖閣についてどうするのが良いのかを示してはいない。

 

(3)ウクライナについて・・・著者は、2014年ロシアによるクリミア併合の時点で、2022年現在世界の問題となっているウクライナについて著述している。以下に簡単にまとめる

ウクライナの危機(クリミア併合)は、米国の覇権の衰えの一例である。

ウクライナの危機は、米国と西欧の失敗がもたらしたもの。米国の理想主義(ウクライナを西欧側に組み込む)という事でロシアの怒りを買った。NATOの東方拡大というのは愚策である。また、EUは、親ロシア派のヤヌコビッチ政権の援助の申し出を冷たくあしらった。ヤヌコビッチ政権崩壊は、ロシアの危機感を煽った。

経済制裁は、一般的に実効性がない。クリミア併合に対する西欧の経済制裁が効力がなかったのはその一例である

〇国家は、経済よりも政治的・軍事的・象徴的事柄を重視して行動する。

 

感想

〇学問的著作である。私の知識と能力では、十分な理解ができないと思われるので、興味ある方は是非一読されたい

〇米国の世界戦略を分析する手段として、理想主義と現実主義という概念は、役立つと思った。トランプは、現実主義であるのは間違いない。「アメリカファースト」や米朝会談に典型的である。バイデンはどうか。

〇米国が、今後覇権国でありえない故、日本の防衛政策の日米同盟一点張りは間違い、というのはほんとのように思う。

〇「日米同盟一点張りがは間違い」が、正しければ、自主防衛は可能か、どんな方法でできるか、とか課題がいっぱいである。著者はこれには一切触れていない。自分で考えなばならない。

〇「日米同盟一点張りは間違い」という事が正しければ、中国の属国として生きる日本の姿(メリット・デメリット)を考えねばならない。著者はこれについても一切触れていない。これもまた自分の頭で考えていかなければならないと思った。

〇私の問題意識は、「日米同盟」は侵略を抑止するか、米国の戦争に日本を巻き込むかというものである。しかし、この本を読んで、米国の戦争に巻き込まれるのではなく、米国が東アジアでも覇権を失い、手をひき、結局重しが取れ、中国の台頭により中国と日本との戦争が心配、という事もあるなと思った。

〇勢力均衡方式は、古今東西人類がずっとやってきた方式であり、戦争を防げなかったものである。やはり別な平和維持方式を構築する必要があると思う。

〇「日米同盟」が日本の安全保障に役立たなくなる、という著者の論説は、衝撃的である。なんせ、日米安全保障条約は、独立回復後の日本の安全保障の中核であるから。著者の説が正しければ、日中が戦った場合、米国は介入しないという事である。どうしましょう皆さん。

〇今現在の日本を「米国の属国」状態と考えれば、今度は「中国の属国」状態になるのもまあ良いか(笑)どうしましょう皆さん。