日本の少子化は、直系家族病

フランスのイマニュエル・トッドの「老人支配国家 日本の危機」という、文春新書を読みました。

 

分かった範囲で、感想を書きます。しかし、正しく理解したかどうかは、保証の限りではありません。学術的な論文ではありませんので、比較的読みやすいですが、物事が分かった、という感じではありません。新しい視点提供というところかな。以下わが備忘録、興味あれば、お読みください。

 

(1)文庫の題と中味がかなり違う、まあ、読者をひきつけるためでしょうけどね。

 

この本は、2013年~2021年、トッドが文芸春秋文芸春秋スペシャルに寄稿した文章等11本を掲載してます。この本には、ピケテイ「21世紀の資本」への感想やら、磯田道史本郷和人との対談も含まれています。

 

分量的には、トランプ関係が多い感じを受けました。11章のうち4本です。この本の題としては「それでもトランプは、歴史的大統領だった」がふさわしいと思いました。この方が売れるのではないかなあ?

 

(2)トッドは、トランプの当選を予測して当てました。そしてトランプ流の米国が良いと判断して、再選を支持しましたが、トランプはバイデンに敗れました。「それでもトランプは、・・・・」は、この流れの中での発言です。

なぜ彼がトランプを支持するか?→以下は、私の理解でして、大きく間違っているかもしれません。

冷戦後の米国の介入が世界を不安定化している。(例、アフガン・イラク・イラン・シリア・ウクライナ)また米国のグローバリズムは、米国内の矛盾を増大(例・白人労働者の雇用破壊)のみならず、世界各国での格差拡大をもたらしている。トランプが打ち出した、自由主義グローバリズムに対する保護主義・国家優先主義が今後の世界のあり方である。「賢いトランプ流」がよい。(トッドもトランプを下品・ガサツな、付き合いたくない人間と言っています

→どうなんでしょうか。分かりません。

(3)トッドは、17世紀末から世界をリードしてきたのは英米であって、英のEU離脱

・米国の孤立主義・分断が目立っても、今後も英米が世界をけん引する。その一つの証拠が英米圏の人口増加である。

→そんな気がする。

(4)民主主義には、隠された土台があって、それは自民族中心主義なもので、自分達を特別なものとみなす考え方が潜む。

→うーん、分からぬが面白い視点と思う。「左派が民主主義の普遍性に固執して失敗し、右派が自民族中心主義の中で、民主主義を進めていく可能性もある。」→面白い。

 

(5)日本の少子化は、直系家族病

 

トッドは、家族類型を5種類に分けています。

絶対核家族」(英米中心)・・・子供は早く親から離れ、結婚すると独立。遺産相続は親の遺言で決定、親子関係は自由で兄弟の平等は無視

「平等主義核家族」(仏北部・スペイン・伊北西部)・・・結婚すると独立。相続は兄弟平等

「直系家族」(独・仏南西部・日・独・韓・スウエーデン)・・・男の長子が跡取りで親と住み、すべてを相続。親子関係は権威主義で兄弟は不平等

「共同体家族」(男子は全員結婚後も親の家に住む。親子関係は権威主義的、相続は平等、これをさらに、いとこ婚を認めない(外婚制)の中・露・北インドフィンランド等といとこ婚を認める(内婚制)アラブ地域・トルコ・イランに分ける。

 

この家族類型を、分析の手段としていろんな論を展開しています。

 

私がびっくりしたのは、家族形態の歴史的変遷です。彼は、初めは核家族で、次に直系家族、現在は共同体家族と言います。

 

私の常識と全く逆です。ほんとかね。私の常識では、大家族→直系家族→核家族なんですがね。

 

さて、現代日本の最大の問題は少子化で、その原因は、表面上核家族化しているけれど、現在も色濃く残る直系家族の意識・観念だというのです。

 

直系家族は、家族を重視します。そこでは、家族が養育・介護も含めた生活全般を支えます。それは家族が重い負担をすることになり、かえって、家族を消滅させてしまう、というのです。

これは、当たっていると思います。独身の男女が、家族という重い負担を回避するのは当然でしょう。

しかし種族維持は、生物の一番強い本能であり、群れるというのもホモサピエンス等の哺乳類の強力な生存手段であり、人間、孤独に生きるのはつらい。つまりは家族になりたいのがホモサピエンスなはずです。

 

結局、で、少子化の解決策は簡単です。家族の負担を軽減すればいいだけです。特に子を産み育てる女性の負担軽減をすればいいだけです。

 

自民党政府の「自助・共助・公助」なんてスローガンは極めてバカげています。自助とは、家族が重い負担をせよという事です。共助は、かつての農村共同体・家族的会社経営です。これもう無理でしょう。もう公助しかないのです。

こんなことのわからない自民党政権担当能力あり、なんて考える国民は、自分で自分の首に縄をかけている大馬鹿者と言えます。

 

(6)中国について

トッドは、中国について「米国を凌ぐ大国になることは決してない、世界の覇権を握るなんてことはない」と言っています。その理由は、少子高齢化2021合計特殊出生率

1.3,男子118:女子100)というのです。

私は、日本の没落の大きな原因は少子高齢化と考えていますので、少子高齢化の中国が米国を抜き世界の覇権を握ることはない、という彼の意見に賛成です。それにしてもこの出生率の男女比すごすぎ。これはどういうことをもたらすのでしょうね。

 

(7)日本は核武装をすべき

トッドは、次のように言います。

米国による「核の傘」は幻想である。米中対立において、自国を攻撃する手段を持つ中国と核によって対峙することはあり得ない。核武装は自国防衛にしか使えない。核は、戦争を不可能にするものだ。核の不均衡が戦争をもたらす。東アジアでは、中国と北朝鮮が核を持つ故、日本も核を保有してバランスを保つべきだ。

→理屈的にはそう言えるかもしれないが、そうでないかもしれない。

分からないけどしかし、これは現実的には無意味な提案であると思う。世界の国々は、核拡散防止条約(NPT)に従って生きている。日本もまた同様である。日本が核保有を目指すとなるとNPTからの脱退が必要で、それは北朝鮮のように世界の孤児となる。日本は、物・人・金・知識・技術等々、世界の国々との交易で生きている国である。孤立は即破滅である。ましてや世界は、非核保有国のかなりの国々で、核兵器そのものを非合法にしようという動きがある。こちらの方が趨勢でしかも理に適う。核の戦争防止力は、恐怖の均衡に基づく、均衡は理性に基づく。国民や指導者がいつも理性的でいられるか、疑問である。一方私は、米国の核の傘が日本にはないという事に賛成する。故に日本は、核をどんな意味でも使っちゃいけない武器とする「核禁条約」を推進する側に立つべきと思う。それによって米国の核の傘の抑止力がないことを補うべきと思う。

 

トッド言う如く、核は戦争を抑止するか?核は自国防衛以使えない武器か?

→分からない。ウクライナが核を放棄しなかったら、ロシアの侵略はなかったか?戦況不利と言われるロシアは何故核を使わないか?うーん、分からない。

 

少し考えましょうか。

保有国が非核保有国を攻撃した例はいっぱいある(米→ベトナムイラク、アフガン等々、中国→ベトナム、ロシア→アフガン・ウクライナ)非核保有国が核保有国を攻撃した例はあるか、なさそうだ。戦った例はある。フォークランド紛争(英VSアルゼンチン)。核保有国が核を使った例があるか、ない。

→まあ、分かりませんね。

 

(8)日本は、移民を受け入よ。移民政策は、多文化主義でなく、ゆるやかな寛容な同化主義で対応すべきである。少子化対策と並行してやるべき。

→賛成ですね。

 

飽きたので、この本の紹介をこの辺で止めますが、この本は、新しい視点を提供してくれました。でもすぐ忘れそうです。何かに興味を持たれた方は、読んでみてください。