独裁者がいなくても戦争になった

NHK スペシャル「日本人はどうして戦争に向かったのかーリーダーたちの迷走」を見ました。

これについて感想を書こう思いましたが、その題名を付けるのに迷いました。

「独裁者なしに、戦争になった。」「独裁者がいないため戦争になった」

「戦争は、独裁など政治制度に関係なしに起こる」

どれがいいんだろう。どれもあわない気がする。

 

普通、第二次世界大戦は、ムッソリーニのファシスタ、ヒトラーナチス、日本の天皇ファシズムが起こした、と言われ、独裁者(ムッソリーニヒトラー、場合によってヒロヒト天皇を並べる)あるいは独裁体制(天皇を利用した軍中心の翼賛体制)が起こすと考えられていますが、

日本の場合の独裁体制という事も厳密に考える必要がありそうだな、と思いました。

 

番組は、1941年の開戦までの、指導部の迷走を描いてました。

番組の問題意識は、石油を米国からの輸入に頼っているうえ、国力の差も甚だしいことは、指導部のほぼ共通意識で、対米戦争は出来ないというのもほぼ共通意識なのに、なぜ戦争に突入したか、です。

私もほぼ同じ意識を持っているので、興味深く見ました。

 

指導部(番組の題名ではリーダー)とは、陸海軍の統帥部(軍人)と首相以下各大臣の政治家です。

統帥部とは、明治憲法の決まり「天皇は陸海軍を統帥す」に基づいて設置される、軍の意思を国家運営に反映させる組織です。

統帥部は、天皇の権限(天皇大権)の一つなので、政府や議会から法的に独立しています。つまり軍は、決まりでは、政府と同格の国家を運営する力を持ってます。

今時々読んでいる、司馬遼太郎の「このくにのかたち」では、「明治は良かった、その後は悪くなった。特に昭和。その根本原因は統帥権」と言っているように見えるが、

統帥権は、明治憲法にその根っこがあり、明治が悪かったんじゃないのか?まあこれは余談(司馬のまね(笑))

 

番組は、

①指導部の決定機関は、大本営・政府連絡会議(以下連絡会議と言います)。決定方式は全会一致であり、その決定を天皇が認めて決定となる。

②首相は、各大臣と同列で、大臣の任命や罷免は出来ず、権限は弱かった

と説明して、指導部の迷走を、時を追って説明していきます。

 

1941年(昭和16年)6月~7月(独ソ戦開始)

米国の経済制裁下、独ソ戦開始という欧州の大変化を受けてどうするか

→連絡会議では、陸軍を中心に北進論(ソ連を攻撃する)海軍を中心に南進論(資源獲得を目指し東南アジアへ勢力を伸ばす)が対立し、決定できず、外交(米国と妥協し)、南進、北進いずれも行うことにした。

その結果、陸軍は80万の軍で関東軍満州派遣軍)の大演習、海軍は、南部仏印ベトナム南部)へ部隊を派遣

→日本の南部仏印進駐に対して、米国は、日本への石油全面輸出禁止。輸出再開は、「中国・南部仏印からの撤兵」が米国の条件。予想外の厳しい反応という事で、指導部は、混乱。

 

9月3日から6日 米国の石油全面禁輸を受けての連絡会議

政府・陸海軍統帥部のリーダーたちは、「米国との戦争は出来ない、勝てない」でほぼ一致、しかし、中国では20万の将兵が戦死している、撤兵を呑めば、20万が無駄死にになる、間違えたと言えない、メンツを失う。立つ瀬がないと迷う。結局、対米交渉続行と対米英蘭開戦の二つ策並存、10月初旬までに結論と決定

 

10月初旬

リーダーたちは、対米戦争は勝てない、ダメと知っているので、陸軍、海軍、首相、企画院、お互いに、「お前が対米妥協を言え」責任転嫁。近衛首相は、「米大統領に直接妥協を言い、それを天皇に奏上し、反対論を抑える」計画画策、しかし失敗、退陣。

 

10月23日 連絡会議

企画院が、インドネシア産石油等の物資の確保と輸送の確保に甘い見通し提出

海軍は、2年以内なら何とか戦うと発表

これに乗って、指導部は戦争遂行に傾くが、対米交渉も続行

11月下旬「ハルノート」(全中国・仏印からの撤兵、満州国否認)を受けて開戦決定

 

番組はこの経過を次のようにまとめて評価した。

「先送りし、追い込まれ、決意無き開戦」

「2年後のその先をどうするかに目を向けない、見たくないものを見ない態度」

敗戦後のリーダーの一証言

「(中国撤兵)首相が2・3人殺される覚悟だったらできた。しかし、そんな指導者はいなかった」

 

私の感想

⓵皆対米開戦はダメと思っていながら、開戦したのは、強力なリーダーがいなかったとは言える。それぞれが他人依存、自己責任回避=無責任だったと言える。制度的にもそれに合致する仕組みだった。

 

しかし、軍と政府両方を抑え指導できる存在がいる。天皇その人である。政治上の統治権と軍の統帥権を持っているのであるから、彼が戦争回避という決断をすればできたはずである。いや唯一彼しかできなかったのだ天皇が決断すれば、指導部も協力したはずだ。

この番組を見て私は、改めて天皇の戦争責任を痛感した。彼しかできない。それはしかし、個人には重すぎる。故に天皇を免責した戦後体制=戦後憲法象徴天皇制)は正しい、と思った。

 

②皆、対米開戦はダメ、と思っていたのだから腹を割って、協力すればいいのになぜできなかったか。対米妥協をすれば、自分の身、あるいは自分の属する組織の不利益になるからと思ったからだと思う。身びいきなのである。国全体を考えていない。人間が小さいのである。無責任なのである。自分や自分の関係する利益団体を考えてはダメだ。

 

現在も、政治家・官僚にそんな傾向があると思われる。

 

③政府から独立した軍部=天皇直属=統帥権がある故にまとまりがつかないことも、みな嫌がった戦争を行った原因である。故に戦後の文民統制は正しい。

 

④首相・陸軍・海軍・企画院が対米妥協を言えなかったのは、身びいきからだろうが、

そのバックには、国民の好戦感情があった。好戦感情は、歴史的に生成されると同時に当時の言論統制・マスメデアの活動も大きいと思われる。20万の死者・膨大なお金をかけて(それは国民の犠牲・負担)中国の一部支配まで来たので後には引き返せない。国民感情には逆らえないという意識もあったかもね。

言論統制は最悪だ。

現在の自公政府の学術会議統制傾向はダメだ。大学への補助金削減と基金を設けて募集作戦はダメだ。競争・能率ばかりを考えるな。教育・学問は非能率で良い。何が役立つか不明だから。

マスコミにはぜひ頑張ってもらいたい。

 

⓹徹底的に考えていない。例えば、海軍が2年は戦えると言ったがその先どうするか、皆真面目に考えていない。企画院の中堅は、様々な前提条件の下、輸送体制は確保できると言ったが、前提条件が崩れた場合の事を突き詰めて考えていない。

 

⑥同様に、台湾有事は日本有事という考えは、その先を考えていない。

日本有事とは、日本が危ないという事で、政府が存立危機事態と判断し、台湾で戦う米軍を武力で応援することである。

 

先のNHKの番組では、中台戦争に米軍が参戦し、中国が佐世保と沖縄(嘉手納)に核兵器を投下するシナリオが紹介されていた。このシナリオで、米中日韓で260万の死者が出る。(拙ブログ8月29日260万の死者)

 

台湾有事の時、政府は、存立危機事態と判断するのか。判断した結果の佐世保基地・嘉手納基地周辺の住民の死傷等にどう対処するのか?責任はとれるのか。

台湾有事は日本有事といった故安倍晋三や麻生等はそこまで考えて言っているのか。

番組では、ハッキリ言わなかったが、さらに拡大する可能性だってあることをほのめかしている。

 

どこで収束させるのか、その収束も考えているのか。太平洋戦争時の2年先のことを考えなかったのと同じことなんじゃないか。危ない。

 

「台湾有事は日本有事」を生みだす法的仕組みである「安保法制」は廃止しておこう。

それは憲法違反とほとんどの憲法学者が考え、過半の国民が考えたものだった。

但し、安保法制・「台湾有事は日本有事」というのは、中国抑止のスクラムを作ることであり、抑止力強化につながるという考えもできる。しかし私はこれを取らない。これは飽きるほど本拙ブログで言い続けた。

 

⑦日本の戦争体制は、無責任な集団指導体制で独裁者はいなかった。天皇しか独裁者になりえなかった。しかし現実には、天皇は独裁者にならず、内心反対してたと思われる対米戦争を認可した。

 

⑦’ポツダム宣言受諾の時は、連絡会議は全会一致の原則から外れ、賛否両論があり、天皇が断を下した。1941年の戦争回避の段階で、こうすればよかった。何せ指導部には戦争回避という共通認識があったのだからできないはずはあるまい。(この番組はその前提の番組。「共通認識はなかった」、となれば話は別)

 

⑧米国の朝鮮戦争ベトナム戦争イラク戦争・アフガン戦争・中南米軍事介入、

中ソ国境紛争、印パ紛争、数次の中東戦争中越戦争、ロシア・ウクライナ戦争等々を見ても

政治経済体制(独裁・専制・民主、社会主義・資本主義)に関係なく戦争は起きる。一番多く戦争をしているのは米国であり、「民主主義国家が戦争と遠い」とは全く言えない

 

⑧’「米国が世界の警察官をやめた」なんていうが、これは警察官は正しいという事から「米国は正義」という見かたを布教させる間違った言い方と思う。

米国は「世界覇権の維持」を諦め始めた、という方が正確である。

警察官の職務は法にも基づいて行う。国際警察官の従う法は、国連憲章国際法である。米国は国連憲章国際法を無視する国家で、警察官なんて言い方は、嘘の宣伝である。マスコミや学者は安易に使うべきでない。ぼやぼやするな。

 

⑨戦前日本の朝鮮・台湾→満州→中国→東南アジアという勢力拡大は、米国のアジア覇権への挑戦と見えたはずだ。それが日本への経済制裁となった。要するに覇権争い。

現在は米中の覇権争いとみるべきである。覇権争いに巻き込まれるのは損と考える。

 

 

⑩この番組で、戦争回避には、政治指導部の強い意志(独裁・専制・民主制に関係なく)が必要と思った。強い意志とは、国民を説得する強い意志、戦争を遂行しようとする勢力を抑える意思。

勿論、政治指導部が戦争を欲しては問題外である。この番組は政治指導部が戦争を欲してない場合、戦争を回避するにはどうあるべきか、という問題意識の番組である。

 

また、日本の南部仏印進駐への米国の厳しい反応は、指導部には想定外で混乱を起こした。

うーん、今の「汚染処理途上水」海洋放出に対する、中国の全面禁輸は、政府の想定外みたいなことか。

いつの時も、指導部には、深い洞察力・情報収集力・分析力が必要である。

 

現日本政権は、米政権に脳みそを預けているようであるが、米国は米国ファーストである。トランプの共和党ばかりでない。民主党でも同じと思っていい。そしてそれはどこの国も同じで、当然のことだ。東西冷戦下、日本の頭越しに、米国は中国と国交回復をしたことを忘れるな。日本も原則、トランプ流でない日本ファーストで良い。

日本政府は、米国・欧州のみならず、中国やロシアやインドや北朝鮮や東南アジア諸国ウォッチャーの強化を是非すべきだ。

 

私にとって興味ある内容の番組でしたので、関連していっぱい言いました。くたびれました。