10歳と8歳の出稼ぎ・他

NHKプラスで、二つのドギュメンタリーを見ました。名作という事で、約20年前のものでした。

一つは、「ただ一撃」という剣道の話です。主人公は、35歳の警官で、剣道世界選手権の男子団体の大将です。日本の10数連覇の途絶の危機を戦った人です。彼の人となりを描いていました。私もかつて剣道を少々やったことがあり、彼の「無心の打突」には興味を惹かれました。「勝とうと思わない」「負ける怖さにおびえない」なんてすごい。常人ではできないことです。

 

もひとつは「母親に会いたい」(2003年)

主人公は10歳のフィリピン少年。少年の一家は、ミンダナオ島ムスリムイスラム教徒)。紛争と貧困から逃れてルソン島のバギオに来た。

 

しかし両親は仕事を見つけられず帰郷。少年と8歳の妹は、バギオのおばのところに住む。

少年は市場で袋売りと荷物運びの仕事をする。やがて妹も働く。

 

二人は、お金をためてミンダナオの母親に仕送りをしている。そのうち母親が入院したという知らせが来て、二人は必死でお金をため、母親に会いに行く。入院費用は、両親が知人から借りていて、その貸主が取り立てにやってくる。

 

父親も母親も病弱。結局、10歳と8歳の兄妹は、借金返済のため、またバギオに出稼ぎに行くほかなかった。

 

少年は、学校をやめて働き、妹を学校にやる。妹も休日働く。けなげというほかない。

 

母親と会えることが決まった時の、少年の喜びようの、その子供らしい姿。

つかの間(10日間)の帰省を終え、母親と別れる時の、8歳の妹のなげく姿。

 

心に迫る。

 

どうして10歳と8歳の兄妹が家族と別れて出稼ぎしなけりゃならないんだ。何が悪いんだ。

 

ミンダナオ島では、キリスト教徒とムスリムの長く対立・紛争・殺し合いがあった。キリスト教(人口の9割)の政府に対する、ミンダナオ島ムスリム武装闘争が中心らしい。

 

その対立の発端は、米国統治下での、ミンダナオ島へのキリスト教徒の入植政策。フィリピン独立後は、比政府とそれに対するムスリムの武力独立闘争。さらに部族間紛争、イスラム過激派(ISIL等)の介入などがあり、複雑化したもののようである。

 

この子たちの両親はいつの時代でか、入植政策で土地を奪われ、貧困化した人々の子や孫だろう。逃げた先のルソン・バギオでのムスリムへの圧迫・偏見故、職を得られなかったんだろう。

 

長い歴史と政治の圧迫のせいで、この子たちの過酷な生活がある。

 

 

この子たちも、キリスト教の子たちからいじめられる。「テロリスト」と言われたりする。兄は、ショバ代らしきものを要求されて叩かれたりする。

 

でもいいこともある。学校の先生が、ムスリムキリスト教徒の交流を図ってくれて、少し相互理解が進む様子が見えた。

 

主人公の少年は言う。「大統領になって、ムスリムキリスト教徒が仲良くなれるよう頑張りたい」

 

えらい。

 

現在どうなのか。wikiで調べると、2021年、この少年たちの故郷に、高度な自治政府が出来て、紛争も一応収まっているようである。

 

出来れば、NHKには、この子たちの現在を取材してほしいものである。現在30歳と28歳である。