読書感想備忘

この3週間ぐらいで読んだ本。

「記録 ミッドウエー海戦」(澤地久枝

「うみよ眠れ」(全6巻)の資料編。

内容は、

第一部 「うみよ眠れ」の成立過程と海戦の真実を追求する材料についての説明

第二部  日米の戦死者と家族の声   艦別に掲載している。遺族の手紙が中心

第三部 戦闘詳報・経過概要・・・機動部隊の戦闘詳報の経過概要と淵田・奥宮共著

    「ミッドウエー」を時間の経過とともに対比している。この二つ大きな違いが

    ある。澤地が「海よ眠れ」で指摘した、旧海軍のごまかしの証明という面があ 

    る。米側の戦闘経過も掲載。

第四部 日米戦死者全名簿(艦別)

第五部 死者の数値が示すミッドウエー海戦・・・ 膨大かつ極めて詳細な統計

感想

第二部の遺族等の手紙に表れた巨大な思い、第四部の死者の一覧に圧倒された。

死者一覧には、出身地・戦死時の階級・在隊年数・死亡年齢・結婚未婚等が書かれている。戦死者数三四一九名と一口で言うが、それぞれに生きてきた人生があり、戦死の状況があり、遺族の嘆きがある。そして三四一九名の死者の遺族の苦闘がある。

今TVや新聞等で、ウクライナ・ロシア戦争の兵の消耗なんていうけど、死者には名前があり、人生があり、遺族の悲しみがある。

諸国民は、戦争を起こさぬよう、工夫を凝らすべきである。為政者や軍指導者の声は、3分の1くらいに聞くべきである。もっと死者の声を聞くべきと思った。

 

透明な迷宮(平野啓一郎

短編集である。

常人とは違う人々を描いていると思った。例えば火を異常に愛する男とか、どんな人間の筆跡もまったく同じにまねして書ける男とか。まあ、読んでては面白かった。

 

橋物語(藤沢周平

橋が、別れとか出会いとか過去の思い出とかこれからの出発という、人生の大事な場面になっている短編小説。それぞれがまあ面白い。登場人物は江戸の庶民である。10編のうちただ1編のみ武士が登場する。ただし脇役である。しかし、重要な役割がある。それだけを紹介する。

「殺すな」

船宿の女将と船頭が不倫・駆け落ちする。二人には、1年も過ぎると隙間風が吹く。男好きの女将が、船頭に飽きるのである。そして女将は、生まれ育った船宿に帰りたくなる。船頭は、女将に「この橋を渡ったら殺すぞ」という。やがて、女将は、実家に戻る決心をする。船頭は追いかけ て殺そうとする。それを止めるのが、裏店の隣人の浪人。浪人は、かつて、不義を働いた妻を切り捨てた。それを後悔している。それで、船頭を橋まで追いかけ「殺すな」と止める。女将は橋を渡っていく。

 

橋の話で「柳橋物語」を読みたくなった。ブログに感想を書いたはずと探したが、ない。大好きだと書いているけど、中味や感想を書いてない。読みたくなった気持ちを抑えられず、図書館で借りた。もともと持っていたんだけど、書籍整理で捨てたものの一つ。ほんとに読みたくなったら図書館から借りればいい、という事で捨てたもの。そんなことが起きてしまった。

 

柳橋物語」(山本周五郎

話の筋は知っている。これまで数回よんだと思うが、あらためて一気に読まされた。

今回思った感想

⓵これまで一番感動したのは、おせんが、将来を誓い合った庄吉を手に入れる為、息子幸太郎(大火の最中助けた孤児)を捨てる場面であった。今回は違った。

②今回興味深く読んだのは、大火の中でのおせんや人々の逃げ惑う様子である。きっとNHKスペシャル関東大震災関係の映像のせいだろうと思う。

③その大火の中での、おせんを愛する幸太の行動と言葉と死に感動した。

④この小説は、おせんの真実の愛の目覚めと自立を描いていると思うが、今回は、そればかりではないと思った。大火という大災害の中での庶民の助け合い・善意を描いている。そして、同じ庶民の、悪意の強さも。

最後に、この小説で心に残った言葉

〇「人間は、金持ちでも貧乏でも苦労するようできている。・・・貧乏人の意地というものがある。貧乏なほど強い。この世間で貧乏人を支えてくれるのはそいつだけだから」(おせんの祖父源六)

〇「お前だけは、俺は死なしゃしない。・・・俺はお前が欲しかった、お前を女房にしたかった。・・・俺は苦しかった。息もつけないほど苦しかった」(幸太)

〇「捨てやしない、どんなことがあっても捨てやしない、幸坊は、あたしの子だわ・・

誰にだって捨てろなんて言われるはずがないわ、たとえ庄さんだって」(おせん)

〇「この子はあたしの子じゃ・・・誰が何と言ってもいい。幸坊はああちゃんの大事な子よ」(おせん)

〇「あたしは幸せだわ、おせんちゃん。ほんとならどこかの空き地か草原で死ぬところだのに、仲良しのあんたに介抱されて・・・私ずいぶん苦労したわ・・・でもこれでおしまいになるの。死ぬことは楽になることだわ・・」(おもん)

〇「あなたにはお詫びのしようもないけれど、あれほど深く、幸太さんに愛してもらったという事、それがこんなにはっきりよくわかったことがうれしいの」(おせん)

〇「これでいいわね、幸さん・・・これでようやく幸さんとご夫婦になったような気持ちよ。あんたもそう思ってくれるわね、幸さん」(おせん)