「永遠の0」感想と「きけ、わだつみのこえ」「戦没農民兵士の手紙」

映画ではなく、小説の方を読みました。
以下に小説の感想を書きますが、「ネタばれ」というのでしょうか、先入観をもちたくない人は、読まない方がいいと思います。余計なことを言いました。

①最後の方で泣けてきました。一番泣けたのは、主人公宮部久蔵が特攻を成功させたところです。
私の愛読書の一つは、「きけ、わだつみのこえ」です。同書は、学徒出陣で戦没した人たちの遺書等を集めた本です。同書は、厭戦・厭軍的思想の人の遺書を選ぶ傾向があったという批判があります。編者たちにもその反省を表した文章がありました。私も集めた全てをそのまま載せればよかったと思います。

岩波新書に「戦没農民兵士の手紙」というのがありますが、これには、戦争への疑問がまったく出ていません。もちろん検閲があったせいもありましょう。また、教育の結果、戦争への疑問も少なかったのでしょう。
この農民たちの手紙には、家の田畑を心配し、家族を心配する気持ちがよくあらわれています。本当は彼らも、家にいて普通の生活をしていたかったのだと思います。その彼らも戦場では、敵と命のやり取りをし、彼らの中には中国国民に残虐な戦争犯罪を犯した人もいると思います。戦争という環境は、人を犯罪者にします。

「きけ、わだつみのこえ」の戦没学生の中には、軍国日本・全体主義日本を明確に否定しながら、特攻を敢行した人がいます。全体からみれば、ごく少数でしょうが。・・・どれほど苦しかったことか。

この小説の主人公の宮部は、職業軍人です。軍国日本への疑問はありません。家族のため生きていたいということから、臆病に見え批判されたりします。
家族のために生きていたいという気持ちと国家防衛のために死ぬという気持ちの矛盾は、多くの特攻隊員にあったことでしょう。いや、全ての兵士にあったことでしょう。(意識するかしないかは別にして)

このような深刻な苦しみを、人に与えてはいけないと思います。私の戦争反対の理由の一つです。

家族や恋人のために生きていたいという若者を、国家防衛のため死ぬ人にする装置の一つが靖国神社でありました。「国家のため尊い命を犠牲にした人」を「尊崇」する。小泉氏・安部氏等靖国神社を参拝する人の考えです。多くの人もこの考えを支持しているようです。

でも、ある一人の若者は、家族や恋人のために生きていた方が、本人にも家族・恋人にもいいんじゃないんでしょうか。ある一人の人の命を超える価値、それはなんでしょか、そんなものはあるんでしょうか?

万世1系の国体護持のため、あるいは大東亜共栄圏建設を信じ特攻を志願した若者も、職業意識から特攻を志願した若者も、家族への愛を振り切って志願した若者も、軍国日本を否定しつつ特攻を志願した若者も、ほとんどが米軍の防衛線を突破できなかったといいます。米国艦船への特攻が成功できなかったといいます。

故に小説の上だけでも、たとえ作り話でも、主人公宮部のような名操縦士が特攻を成功させる場面には涙を誘われます。

②この小説のつくりは、主人公宮部を戦友の証言で明らかにしていくという構造になっています。その戦友たちの宮部に対する印象が違っているのですが、そのしゃべり方が同じように見えて、不自然でした。特に戦況説明を戦友たちにさせているのが失敗のもとだと思います。説明が冗長でした。映画にすれば、俳優の体・肉声でこの欠点がカバーされるのではと思いました。

③家族への愛のためどんな場面でも命に執着してきた宮部が、生きるチャンスを部下にゆずる動機がやや弱いかなと思いました。特攻機を守ることができなかった罪悪感とかつて命を救われた部下への恩返しがその理由と思いましたが、読みが間違っているかもしれません。部下に許嫁がいますが、彼にも妻と娘がいます。何故ゆずったのかな。彼の能力であれば、もうすぐ戦争は終わることが分かるはずで、自分も部下も生き延びるて手だてを
見つけることができると思います。

④かれに命を救われた部下が、実は話し手の義父だったというのは、面白いなと思いました。東野圭吾を読むような感じをうけました。話し手のあねが、大好きな人=藤木を結婚相手に選ぶのは、なぜか良かった。

ゼロ戦については、事実にもとづいて記述しており、映画「風立ちぬ」のような違和感はありませんでした。特に航続距離が長いという長所が実は、「操縦する人間のことを考えているのか」と言う主人公の言葉にはっとさせられました。ゼロ戦は、格闘性能優先のため防弾装置もないという特徴から言っても、人間の命を軽視した武器でした。そのような戦闘員の命の軽視という思想が、特攻を生みだした背景の一つともいえると思いました。尤も武器自身が人間の命を奪うものですので非人間的と言えるのでしょうが。

⑥この小説中に、特攻はテロかという論争があります。911テロと同じなんていう人もいますが、全然違うでしょう。特攻の相手は戦闘中の米軍兵士ですし、911テロは、平時の庶民が攻撃対象です。911テロは、何らかの政治的主張がありそうですが、特攻にはありません。小説中に特攻隊員は、洗脳されているかいないかと言う論争がありますが、意味のない議論のように思いました。私のいろんな考えや感情の持ち方が洗脳されているか,
されていないか、どちらとも言えるんだと思います。洗脳の定義をしっかりしたうえで成り立つ議論ですので、意味のない議論と思いました。

⑦特攻は犬死かという論争もあります。大事な大事な論点です。犬死は、無駄な死という意味でしょうが、私には、犬死かどうか良く分かりません。勝てない時点で死ぬのは無駄と言えます。
勝てないと判断するのは政治・軍事指導部です。指導部が勝てないと判断しながら、戦争を継続している時の特攻は犬死させられたと言えそうです。
では、無駄な死になったか?
私は、特攻隊の手記を見て、こんなことを二度と起こさないように、われわれが生きれば、彼らの死は、無駄な死にはならないと思います。われわれが彼らを忘れれば無駄死にになるんだと思います。

この小説や映画で感動した人には、まだお読みでなかったら、「きけ、わだつみのこえ」をおすすめします。こちらに、本当の特攻隊員の声があります。