元気な子どもたちー「下駄の上の卵」感想文

井上ひさしの「下駄の上の卵」を読みました。

昭和21年の山形の野球好きの6年生の話です。相変わらず、楽しいですね。実に楽しい。と言っても何のことやらわかりませんね。

まあ、どたばた喜劇+言葉遊び+ばかばかしい蘊蓄を傾けたおしゃべり+ばかばかしい奇抜な着想+権威を笑い飛ばすなどなどの面白さ。と言っても何のことやらわかりませんね。

少し例をあげましょう。

「どたばた喜劇」・・・野球ボールが欲しくて米を売りに行く途中でその米を失い、その原因を作った相手のコメを盗み、上野でその米をだまし盗られ、スピードくじでお金と煙草を手に入れ、それでボールを手に入れ、しかしお金は団子屋にだまし取られ、パンパンの手助けをして大金を手に入れ、その金を少年詐欺団にだまし取られ・・・これが2日間の出来事なんです。

言葉遊び・・
「流れ弾でこの指持って行かれた。ギター弾きにとってこれがどういうことかわかるか」
戦艦大和の抜きの日本連合艦隊
「サングラスのないマッカーサー
「山高帽なしの天ちゃん」
「汽笛のならない蒸気機関車

おしゃべり・・
「コロッケが食堂車の献立の載っていたのは昭和16年の暮れまでのはずです」
「ビールがあったと言うのも怪しい。お酒の間違いじゃないか。先着の何十人かに限って、白雪、白鶴、菊正宗、月桂冠、爛漫のうちどれかは出ることはあり得るけどね。東北本線奥羽本線に限っては、・・・
コロッケはなかった。あったとすれば、鮮魚フライ、かまぼこ、親子丼、鰻丼・・・」

奇抜な着想・・
虱の速さの研究、蛙の声遁の術の真偽研究(ヘビが蛙を呑む観察)同じ長さのヘビがお互いのしっぽから共食いしたら最後はどうなるか?

まあこんな感じです。

面白いばかりではありません。
戦争直後の世相を実に見事に活写しています。それは極度の混乱の時代と言っていいと思います。
しかし、井上の筆致は、明るく、喜劇的です。彼の「東京セブンローズ」も明るく、喜劇的でした。どうしてそうなんでしょうか。
ホントに明るかったのかな。時間の経過というフィルターを通したから明るく見えたのか。ホントは暗かったのに井上が明るく描いたのかな。庶民は明るかったのかな。わかりません。
史書は、(と言っても大して読んだわけではないです)混乱の時代を示しています。衣食住の基本がまったく満たされない時代です。だから生きることが大変だったのです。それでも明るく元気だった?日本全体がどうなるかなんて日本人に分からなかった。と言うより皆が自分のことしか考えてなかった。
自分の生きることにのみ必死と言うのは、明るいも暗いもないのかな、それを遠くから見ると、明るい喜劇になるのかな。

何か面白い考えることを見つけたような気がします。
まあ、つべこべ言わず面白かったで、それで良いでしょう。
あ、井上の天皇の戦争責任論もあり、それには大賛成でした。