特定秘密保護法が成立した日に(3)

特定秘密法が成立しそうな夜勤の数夜に藤沢周平「海鳴り」を読んだ。藤沢作品は多く読んでいるがこの小説は読んでなかった。

簡単なごく簡単なあらすじ紹介で「崩壊する平穏」見たいなのがあったので、かわいそうなのはいやだなと思って読んでなかったのである。

なぜよんだか。秘密法が、これまで守ってきた平穏な日本を崩壊させそうな気がしたからかもしれない。

感想
①主人公小野屋新兵衛は、努力して一代で中堅紙問屋を起こした努力の人である。その彼が、殺人を犯し、逃亡生活に至る悲劇を、無理なく描いていて圧巻である。

②主人公の商売上の戦い、家族を守る戦いへの姿勢はすごいと思う。男から見て魅力的だ。

③主人公の妻との行き違い、後継ぎ息子の家業拒否・恋への傾倒もありそうで納得できる。

④最大の問題。主人公の不倫=おこうとの宿命的な出会いと愛への飛躍をどう考えるか。あり得ることだろうな。

⑤うーん。男女の宿命的な出会いってあるのかな。ある男とある女のぴったりしたカップルってあるのかな。そういうのはないんであって、そう思う「思いこみ」はあるんだろうな、と思う。


⑥恋愛の破壊的エネルギーに驚嘆する。多分多くの小説で読んだがあまりおぼていないな。思い出したのは、漱石「それから」だな。あの恋愛も破壊的であった。そういえば、ゲーテのウエルテルは、自分を破壊した。


⑦新兵衛とおこうのその後が気になる。「それから」のその後も気になったが。犯罪者として捕まるかどうかのみならず、犯罪者という罪意識は二人を苦しめないかということ。


⑧新兵衛が家を捨てる時、うまくいかなかった家の重さを思う文章も圧巻である。
 営々として築いてきた家の重さ。それもまた価値あるもの。